消防士は彼女の恋に火をつける
「すみません!」
「いえ……」

 彼はすぐに手を放してくれたのだけど、私の心臓はばくばくと激しく鳴っている。

「あらためてお詫びしたいので連絡先を教えてください」

 私が驚くと、彼ははっとしたように目をそらした。

「すみません、お嫌でしたら」
「大丈夫です」

 私がバッグからスマホを取り出すと、彼もポケットから取り出した。
 連絡先を交換すると、彼は目を細めてそれを見る。
 ……嬉しそうに見えるのは、私の気のせい?

「本日はまことに申し訳ありませんでした。以後、気を付けます」
 彼はびしっとお辞儀をするから、私も慌ててお辞儀を返す。

「私も気を付けます。失礼します」
 私は彼が気になって走り出せなかった。みっともないって思われたくない。

 曲がり角を曲がったら全力疾走した。
 電車には間に合わなくて、遅刻してしまった。
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