消防士は彼女の恋に火をつける
 彼がにじり寄ってきて、私は怖くて一歩あとずさる。

「彼女になんのようですか」

 怒りのこもった低い声にそちらを見ると、向井さんがいた。

「俺が代わりに承りますが」

 彼は私とナンパ男の間に割って入り、彼にすごむ。私にはたくましい背中しか見えないけど、それでも迫力がにじんでくる。

「いや、別に」
 男はすごすごと退散し、私はほっとした。

 向井さんはくるりと振り返る。そのときにはもうさきほどの迫力はない。

「大丈夫ですか? すみません、俺がもっと早く来ていたら」

 心配そうな瞳は澄んでいて美しい。

「助かりました」

 大丈夫だから、と安心してもらうために、私はにっこりと彼に笑いかける。
 彼がまぶしそうに目を細めるから、私はどきっとした。愛しいものを見るような、そんなまなざしに思えて……。

「おいしいランチの店を調べておいたので。たくさん食べてくださいね」

 彼の言葉に私はくすっと笑った。
 たくさんっていうのが消防隊員らしい。
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