消防士は彼女の恋に火をつける
「たま~! たまのすけ~! どこにいるの~⁉」
 女性が叫びながら現れた。

「もしかしてあの猫ちゃんですか?」
 私が話しかけると、女性は木の枝の猫を見て顔をひきつらせた。

「たまのすけ! あんた高いとこ苦手なのに!」

 私は目をぱちぱちさせた。猫は高いところが好きなイメージだったのに、苦手なパターンあるんだ?

「どうしよう。棚に登ってもいつも降りられないんですよ、あのこ……」
 おろおろする飼い主に、猫が「にゃああ!」と鳴いた。まるで「助けて」と言っているかのようだ。

「俺が行きますよ」
 向井さんが言い、私と女性は驚いて彼を見た。

「でも、あんな木の上なのに」
「こういうときのために体を鍛えてるんですから」
 彼はそう言って木に近づく。

「あの人は消防隊員なんですよ」
 私が説明すると、彼女は安心したように息をついた。

 だけど。
 私は彼を不安に見る。
 消防隊員だって木に登る訓練なんてしていないはずだ。

 私の心配をよそに彼はするすると木に登っていき、枝ですくんでいる猫に手を伸ばす。

「たまちゃん、こっちにおいで」
 彼が優しく呼びかける。

 猫はまるで彼が助けにきたことをわかっているかのように、そろりそろりと近づいて、彼の指先の匂いをくんくんと嗅いだ。

 彼が猫をつかむとおとなしくそのまま抱かれる。

 彼は片腕で猫を抱き、もう片手を使って器用に木を降りてきた。
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