柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
足を止めて端末を握り締めると、隣の足音もぱたりと止まった。
はっとして顔を上げると、傘をわずかに傾けて私の手元を覗き込んでいる彼の顔が覗く。
「す、すみません。お話の途中でこんなものを見て」
咄嗟に飛び出した謝罪の言葉には、我ながら露骨な焦りが滲んでいた。
やはり失礼だったか、と心中で頭を抱える。そもそも、こうした厳かな場所で端末を手にしているだけでも十分不謹慎に思えてくる。
けれど、彼は私の態度を咎めたがっているわけではなさそうだった。とにかく興味深そうに、私の手元を――握り締めたスマートフォンを見つめている。とても珍しいものを見たとばかりに。
まさか、スマホを知らないなんてことは……いや、いくら山奥暮らしだからといってもそれは考えにくい。
口元を緩めて曖昧に微笑んでみせると、相手は我に返った様子で私のスマートフォンから目を外し、傘を元の位置に戻して視線を遮った。
「ええと。可愛らしい、お色ですね」
え、と思う。論点のずれたことを言われた気がしてならない。
なんと返したものか逡巡した後、口をついて出たのは「ありがとうございます」という間の抜けた返事のみだ。なんにせよ、この人なりの褒め言葉なのだろうし、礼を告げておいて間違いはない。そう思い込もうとしながらも、妙に気に懸かってしまう。
なんだろう、この感じは。
日常から懸け離れた風景、馴染みのない場所、そして目の前の男性の上品な仕種と作務衣姿。それらに囲まれていると、自分が大昔にタイムスリップしてしまったような錯覚を受ける。腕時計もスマートフォンも電池切れという事態が、その感覚に拍車をかけていた。
なんにしても、今は用件を済ませるのが先だ。
頭に残る不可思議な感覚を、私は半ば強引に隅へ追いやる。
はっとして顔を上げると、傘をわずかに傾けて私の手元を覗き込んでいる彼の顔が覗く。
「す、すみません。お話の途中でこんなものを見て」
咄嗟に飛び出した謝罪の言葉には、我ながら露骨な焦りが滲んでいた。
やはり失礼だったか、と心中で頭を抱える。そもそも、こうした厳かな場所で端末を手にしているだけでも十分不謹慎に思えてくる。
けれど、彼は私の態度を咎めたがっているわけではなさそうだった。とにかく興味深そうに、私の手元を――握り締めたスマートフォンを見つめている。とても珍しいものを見たとばかりに。
まさか、スマホを知らないなんてことは……いや、いくら山奥暮らしだからといってもそれは考えにくい。
口元を緩めて曖昧に微笑んでみせると、相手は我に返った様子で私のスマートフォンから目を外し、傘を元の位置に戻して視線を遮った。
「ええと。可愛らしい、お色ですね」
え、と思う。論点のずれたことを言われた気がしてならない。
なんと返したものか逡巡した後、口をついて出たのは「ありがとうございます」という間の抜けた返事のみだ。なんにせよ、この人なりの褒め言葉なのだろうし、礼を告げておいて間違いはない。そう思い込もうとしながらも、妙に気に懸かってしまう。
なんだろう、この感じは。
日常から懸け離れた風景、馴染みのない場所、そして目の前の男性の上品な仕種と作務衣姿。それらに囲まれていると、自分が大昔にタイムスリップしてしまったような錯覚を受ける。腕時計もスマートフォンも電池切れという事態が、その感覚に拍車をかけていた。
なんにしても、今は用件を済ませるのが先だ。
頭に残る不可思議な感覚を、私は半ば強引に隅へ追いやる。