柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 早く終わらせないと、帰路に就く途中で真っ暗になってしまう。
 辿ってきた獣道には電灯ひとつなかった。さらには、この通りの悪天候だ。暗い夜道をひとりで歩くなどという事態は避けたい。

 夜道が怖いとか不安だとかそういう気持ちよりも、万が一、泥濘(ぬかるみ)に足を踏み入れたり路肩に落ちたりといった事故が起きたとして、誰にも発見してもらえないのでは――そんな恐怖のほうが強かった。

 でも、例えばこの人が麓まで送ってくれるとしたら?
 淡い期待を抱きそうになったところで、この場所に車があるわけはないと気づいた。敷地内を見回してみたものの、やはり自家用車の類は見当たらない。だいたい、よく考えてみれば、車が入れない道だったからこそこうして自力で歩いてきたのだ。

 ひとりで戻らなければならないと確定した今、私にできることはひとつだけ。

「あの、丁寧に案内していただいてありがとうございます。ええと、その……ひとつ伺いたいのですが、こちらのお寺さまって〝絵馬様寺〟ですよね」

 尋ねるや否や、私の頭よりも高い位置で揺れる黒い傘から、端正な顔が覗く。
 湿気を含んだ髪。怪訝そうに揺れる瞳。そのふたつが同じ色をしていると、私はこのとき初めて気づいた。光に透かしたとしても普通そうは見えないだろう灰色だ。
 もしかしたら、彼の不思議な髪の色は染色の結果ではないのかもしれない。どうしてか、今考えるべきではないことばかり、頭の端を呑気によぎっていく。

「ええ。そのように呼ばれていた頃もありましたが」
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