柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 商店を出てからの時間を正確に計っているわけではないものの、一時間は軽く超えているはずだ。
 予約している旅館は、あの商店からさらに数キロメートル離れた町の中心部にある。道が広くなる辺りまで戻った後はタクシーを利用してもいいけれど、そこまでは自力で歩くしかない。
 目印の石碑に到着したとき、腕時計は午後二時を示していた。あまりのんびりしてはいられない。

 話が途切れた隙を見計らい、腕時計に視線を走らせる。
 傘がお互いの視線をある程度遮ってくれている上、隣を歩く彼はかなりの長身だ。それほど気を揉まなくても問題ない気はしたけれど、言葉を交わしている最中に時間を確認するような不躾な真似は避けたかった。
 でも、腕時計を見た瞬間、私は図らずもきょとんとしてしまう。

 午後二時。
 さっきと変わらない。

 え、と素っ頓狂な声をあげそうになりつつもなんとか堪え、もう一度時計を凝視すると、秒針が動いていなかった。
 どうやら電池切れらしい。よりによってこんな場所で……間が悪い。腕時計の電池の予備なんて持っていない。あったとしても、自分では交換できない。精密な作業は苦手なのだ。

 それなら、スマートフォンは。
 傘を片手に持ったまま、私はトートバッグの中に逆の手を滑らせて端末を取り出した。ところが、電源ボタンを押しても画面をタップしても、こちらもさっぱり反応がない。

 昨晩きちんと充電したのにどうして、と思わず首をひねった。
 充電器は旅館に預けてある荷物の中だ。どのみち充電器があったとして、この山奥に電気が通っているかどうかは怪しい。

 ――困った。
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