柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
「あ……」
『私はかつての跡継ぎでした。ときおり、強い力を持った者が生まれ落ちるのです。そうとひと目で分かるよう、身体の一部に徴を……痣という証拠を持ってね』
瞬間、鈍器で頭を殴られたような衝撃が走った。
痣。尊さんの鎖骨の下。死後婚。絵馬。やはり偽りではなかったという意味なのか、それとも。
男の話を鵜呑みにする気にはなれなかったけれど、嘘をついているようにも見えない。
『絵馬に君と僕の名前を書けば』
声をあげることを忘れた唇が、微かに震え始める。
いつか尊さんが私の首を絞めながら口にしたその言葉が、なにを信じるべきかが揺らいだ私の頭の中を激しく暴れ回る。
『私にも尊にも徴があった。一族の重鎮たちは長きにわたる議論の末、一度は私に定めたはずの後継を尊に変えたのです。尊の徴は薄く、小さかった……私のほうが遥かに大きな徴を持っていたにもかかわらず、兄の私ではなく、そいつに』
話が進むにつれ、男の表情の歪みは深まっていく。その顔と、明らかに怒気を抑え込んでいると分かる低い声が、私にはただただ恐ろしかった。
一方で、彼が語る話の内容に、違和感を覚えてもいた。
『尊の徴は薄く、小さかった』
……あれで?
元々の肌が白い分、より濃く見える尊さんの痣を思い浮かべる。何度も目にしてきたあの痣は、どう控えめに見ても薄くも小さくもない。
続く言葉を黙って待つ私へ、男は鼻白んだ様子で口を歪めてみせた。
『しかし、正当な後継となった尊には、周囲が望むような力は現れなかったのです。それを知った年寄りたちが、再び後継を変更せねばと騒ぎ出した。黄泉へ干渉できる者が当主でなければ、有力者たちの信頼を得られなくなりますからね』
深い靄をくぐって届く声が耳を刺す。
『私はかつての跡継ぎでした。ときおり、強い力を持った者が生まれ落ちるのです。そうとひと目で分かるよう、身体の一部に徴を……痣という証拠を持ってね』
瞬間、鈍器で頭を殴られたような衝撃が走った。
痣。尊さんの鎖骨の下。死後婚。絵馬。やはり偽りではなかったという意味なのか、それとも。
男の話を鵜呑みにする気にはなれなかったけれど、嘘をついているようにも見えない。
『絵馬に君と僕の名前を書けば』
声をあげることを忘れた唇が、微かに震え始める。
いつか尊さんが私の首を絞めながら口にしたその言葉が、なにを信じるべきかが揺らいだ私の頭の中を激しく暴れ回る。
『私にも尊にも徴があった。一族の重鎮たちは長きにわたる議論の末、一度は私に定めたはずの後継を尊に変えたのです。尊の徴は薄く、小さかった……私のほうが遥かに大きな徴を持っていたにもかかわらず、兄の私ではなく、そいつに』
話が進むにつれ、男の表情の歪みは深まっていく。その顔と、明らかに怒気を抑え込んでいると分かる低い声が、私にはただただ恐ろしかった。
一方で、彼が語る話の内容に、違和感を覚えてもいた。
『尊の徴は薄く、小さかった』
……あれで?
元々の肌が白い分、より濃く見える尊さんの痣を思い浮かべる。何度も目にしてきたあの痣は、どう控えめに見ても薄くも小さくもない。
続く言葉を黙って待つ私へ、男は鼻白んだ様子で口を歪めてみせた。
『しかし、正当な後継となった尊には、周囲が望むような力は現れなかったのです。それを知った年寄りたちが、再び後継を変更せねばと騒ぎ出した。黄泉へ干渉できる者が当主でなければ、有力者たちの信頼を得られなくなりますからね』
深い靄をくぐって届く声が耳を刺す。