柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
ときおり恍惚とした表情を見せながらも、彼の仕種にはいつしか憎しみと狂気が滲んでいた。
それを感じ取ってしまったせいで、身体の震えが余計に止まらなくなる。
その震えごと包み込むように、私の手を握る尊さんの指に力がこもった。
はっと隣を見上げたけれど、尊さんはやはりなにも言わない。相変わらず能面じみた表情で、相手の話の続きを黙って待っている。でも。
先刻まで浮かんでいなかった感情を彼の顔に見出し、私は目を見開いた。
尊さんの顔には、明らかな侮蔑が滲んでいた。
『そして口論となった。私を妬んだ尊は、小刀を振りかざし、そのまま私の徴ごと心臓を』
「黙れ」
相手の言葉の最後に被せるように響いた尊さんの声は、今まで聞いた彼のどの声よりも低かった。
その声が宿していたのは、怒りだ。
尊さんは怒っている。声を荒らげることなく、どこまでも静かに、それでいて濁流じみた強烈な怒りに身を任せている。その証拠に、腕に触れる彼の手はひどく熱い。服越しにも分かる温度の高さに戦慄した私は、浅い呼吸を繰り返すしかできなくなる。
「あ」
思わず漏れた声が、その場に残る色を鮮明に切り抜き始める。
靄が形を成しただけの男――尊さんのお兄さんは、最初に現れたときよりも遥かにはっきりとした人の形を取っていた。まるで実在する人間のように。
藍色の中に浮かぶ金糸が、私の視界をじりじりと焼く。
眩暈は、その二色をじっと見ているとさらに深まっていく。膝を崩しそうになった私を、尊さんがすかさず支えた。
どうしてだろう。すぐ傍にいるのに、尊さんまで靄になってしまったような錯覚が抜けない。
立ちくらみの真の理由は、この異常な状況そのものより、むしろそちらなのではという気さえする。
それを感じ取ってしまったせいで、身体の震えが余計に止まらなくなる。
その震えごと包み込むように、私の手を握る尊さんの指に力がこもった。
はっと隣を見上げたけれど、尊さんはやはりなにも言わない。相変わらず能面じみた表情で、相手の話の続きを黙って待っている。でも。
先刻まで浮かんでいなかった感情を彼の顔に見出し、私は目を見開いた。
尊さんの顔には、明らかな侮蔑が滲んでいた。
『そして口論となった。私を妬んだ尊は、小刀を振りかざし、そのまま私の徴ごと心臓を』
「黙れ」
相手の言葉の最後に被せるように響いた尊さんの声は、今まで聞いた彼のどの声よりも低かった。
その声が宿していたのは、怒りだ。
尊さんは怒っている。声を荒らげることなく、どこまでも静かに、それでいて濁流じみた強烈な怒りに身を任せている。その証拠に、腕に触れる彼の手はひどく熱い。服越しにも分かる温度の高さに戦慄した私は、浅い呼吸を繰り返すしかできなくなる。
「あ」
思わず漏れた声が、その場に残る色を鮮明に切り抜き始める。
靄が形を成しただけの男――尊さんのお兄さんは、最初に現れたときよりも遥かにはっきりとした人の形を取っていた。まるで実在する人間のように。
藍色の中に浮かぶ金糸が、私の視界をじりじりと焼く。
眩暈は、その二色をじっと見ているとさらに深まっていく。膝を崩しそうになった私を、尊さんがすかさず支えた。
どうしてだろう。すぐ傍にいるのに、尊さんまで靄になってしまったような錯覚が抜けない。
立ちくらみの真の理由は、この異常な状況そのものより、むしろそちらなのではという気さえする。