柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
〈手記・四〉

紅蓮

 兄と藍の葬儀は、厳戒態勢の中、父とごく少数の重鎮たち、そして藍の家族らの手によって執り行われた。

 深手を負った私は参列できなかった。藍と私の婚姻の儀も、藍の死によりすべて白紙に戻された。私が兄を刺した事実も、藍が兄の後を追って自害した事実も、父と重鎮たちの意向ですべて隠された。
 兄に殺されかけた私を、父は穢らわしいものを見る目で眺めていた。
 露骨な視線を向けられるのは久しぶりで、もはや悲しみすら感じなかった。まず顔を合わせない上、彼が実の父親だということを忘れて過ごした期間が長すぎたせいもあり、感慨も感傷も湧かなかった。

 傷が塞がった頃、強烈な耳鳴りがたびたび聞こえるようになった。兄の仕業だとすぐに勘づいた。
 死してなお、兄は黄泉へ向かわず、此岸に留まることを選んだらしい。
 ほぼ時同じくして息絶えた藍が、すでに黄泉へ深く足を踏み入れていると、あの男は気づけていない。黄泉を選ばなかった兄は、そのせいで藍の気配を追えなくなってしまったのだろう。これ以上の皮肉はない。

 耳鳴りは、梅雨の季節の細い雨音と混ざり合い、私の鼓膜とその奥を犯し続けた。
 不快な異音は声ならざる声となり、ひたすら私を苛んだ。寺院を潰せ、守るべきものを自らの手で滅ぼしてみろ――幾度もそのように私を揺さぶった。

 私は逆らわなかった。逆に、兄を利用することにした。
 寺院を潰したがっているのは兄であり、自分ではない。そんな大義名分を得た私は、兄に取り憑かれたふりをしながら、正しい力の使い方を放棄した。
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