柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
*
「……っ、やはりお前か! 兄に祟られでもしたか、このたわけが!!」
口は達者だが、反応は実に正直だ。
一歩、また一歩と足を進める私とは対照的に、一族の重鎮最後のひとりとなった老人は顔を歪めて後ずさる。逃げられないことくらい分かっているだろうに、なんと愚かしい。
「あなたでやっと最後です。初めに中枢を叩き潰しておいたのは我ながら良策でした、あとはあなたのような小物ばかりでしたので」
「貴様……自分がなにをしでかしているのか、自覚はあるのか……ッ」
微笑んでみせた私に、老人は変わらず減らず口を叩く。
思えば、こいつはいつもそうだった。他の重鎮たちに流されるしかできぬくせに、非難の声だけは高らかなのだ。
護を継承者から引きずり下ろすための画策を声高に叫んだそれと同じ口で、舌の根も乾かぬうち、今度は真逆の案を口走る。己の意見をろくに持たぬ者ほど声は大きい。
「もちろんです」
「っ、なん、だと」
「腐った輪廻はどこかで断ち切らねばならないでしょう? あなたたちにそれができなかったからこそ、僕がこうして自ら手を汚してでもと思った、それだけの話です。むしろ褒めていただきたいぐらいなのですが」
言葉に滲ませた侮蔑を読み取ったのか、老人は憤怒のあまり顔を赤黒く染めている。
ぎろりと光る皺の奥の双眸を眺めつつ、私は一枚の絵馬を見せつけてやった。すると、彼は途端に顔を青褪めさせた。
ころころと顔色を変えて、忙しい男だ。つい笑いが零れてしまう。
老人の奥方の名が刻まれたそれは、絶大な効果をもたらしたようだった。ぐ、と低く唸った老人は、先刻までの威勢はどこに行ったのかと尋ねたくなってくるほど、ぶるぶると全身を震わせ始めた。
「……っ、やはりお前か! 兄に祟られでもしたか、このたわけが!!」
口は達者だが、反応は実に正直だ。
一歩、また一歩と足を進める私とは対照的に、一族の重鎮最後のひとりとなった老人は顔を歪めて後ずさる。逃げられないことくらい分かっているだろうに、なんと愚かしい。
「あなたでやっと最後です。初めに中枢を叩き潰しておいたのは我ながら良策でした、あとはあなたのような小物ばかりでしたので」
「貴様……自分がなにをしでかしているのか、自覚はあるのか……ッ」
微笑んでみせた私に、老人は変わらず減らず口を叩く。
思えば、こいつはいつもそうだった。他の重鎮たちに流されるしかできぬくせに、非難の声だけは高らかなのだ。
護を継承者から引きずり下ろすための画策を声高に叫んだそれと同じ口で、舌の根も乾かぬうち、今度は真逆の案を口走る。己の意見をろくに持たぬ者ほど声は大きい。
「もちろんです」
「っ、なん、だと」
「腐った輪廻はどこかで断ち切らねばならないでしょう? あなたたちにそれができなかったからこそ、僕がこうして自ら手を汚してでもと思った、それだけの話です。むしろ褒めていただきたいぐらいなのですが」
言葉に滲ませた侮蔑を読み取ったのか、老人は憤怒のあまり顔を赤黒く染めている。
ぎろりと光る皺の奥の双眸を眺めつつ、私は一枚の絵馬を見せつけてやった。すると、彼は途端に顔を青褪めさせた。
ころころと顔色を変えて、忙しい男だ。つい笑いが零れてしまう。
老人の奥方の名が刻まれたそれは、絶大な効果をもたらしたようだった。ぐ、と低く唸った老人は、先刻までの威勢はどこに行ったのかと尋ねたくなってくるほど、ぶるぶると全身を震わせ始めた。