柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
     *


 赤一色。
 眼前に広がる無数の絵馬、それらが次から次へと火の粉を噴き上げ、焼け落ちていく。

 美しい。どこまでも広がる赤。
 護と藍、ふたりを染めていたものと同じ色。
 今、僕も同じ色に染まって……ああ、さすがに、疲れた。

 なんでだ。僕だけが残ってどうなる。なぜ早々に僕を殺してくれなかった。
 あんたと藍が残れば良かったんだ。なにも成し得ない僕では意味がない、それよりならまだ、あんたたちが残ったほうがずっと意味があっただろうに。

『護は、五つのときにすべて受け入れた。お前はどうだ』

 今は亡き母の声が脳裏をよぎる。そう、いっそ分別がつく前に受け入れてしまうほうが遥かに気楽だった。
 心のどこかで、僕は護が羨ましくてならなかった。どうして後継者の変更なんて成されてしまったのか……中途半端な正義を誓ったところで、結局、それを叶えきれず周囲に呑まれるばかりの僕ではなにひとつ成し得なかった。

 護と藍が死んだ日、僕の心も死んだ。絵馬を、死後婚を、あるべき姿に戻そうと願う心が息絶えた。
 だからこそ、禁忌を破って人を殺め続けていられた。こいつらは邪な力の使い方で利を得る者たちだと、悪だと、そう信じながらもそれと同じ手口で。

 正義のための人殺し――笑ってしまう。
 僕だって、禁忌によって富を得ていた奴らと変わらない。いや、それ以下だ。綺麗ごとを口にしては禁忌を犯す、そんな僕のほうがよほど醜悪ではないか。
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