柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
手にかけた者たちの中には、詳細を伝えられることなく、ただ命じられて禁忌に手を染めさせられていた者もあった。
その者たちに罪はあったと言えるのか……言えるわけがない。そういう者たちも殺した。僕が、この手で。
そのくせ、藍の身内は手にかけられなかった。
藍の家族には、藍以外、彼岸と此岸に関連する力を持つ者はいない。とはいえ、澪に――藍の妹に、それとは異なる特殊な力があることは知っていた。
だが、胸を這う妙な情に勝てなかった。澪だけはどうしても殺せなかった。
なにもかもが中途半端。
くだらない茶番に踊らされているのは、他ならぬ僕自身。
肉の燃える臭いがする。
ひどい臭いだ。灼けつくような痛みが全身を包んで……熱い。
絵馬が燃えている。
いつか母に伴われて同席した死後婚の儀、そのときに手を取り合った少年と少女の名が刻まれた絵馬も、燃えて灰になってしまうのだろう。
今日の雨は細い。この程度では、燃え盛る火を留まらせるには力不足だ。
穢れた絵馬伝承は、頭から油を被った僕ごと、この世から綺麗さっぱり消え失せてくれるに違いない。
ゆっくりと瞼を伏せた、そのときだった。
『尊兄さま』
不意に、小さな声が耳を揺らした。
どこか遠くにそれを聞きながら、僕は、ろくに動かぬ身体を無理やりそちらの方角へ向き直らせた。
その者たちに罪はあったと言えるのか……言えるわけがない。そういう者たちも殺した。僕が、この手で。
そのくせ、藍の身内は手にかけられなかった。
藍の家族には、藍以外、彼岸と此岸に関連する力を持つ者はいない。とはいえ、澪に――藍の妹に、それとは異なる特殊な力があることは知っていた。
だが、胸を這う妙な情に勝てなかった。澪だけはどうしても殺せなかった。
なにもかもが中途半端。
くだらない茶番に踊らされているのは、他ならぬ僕自身。
肉の燃える臭いがする。
ひどい臭いだ。灼けつくような痛みが全身を包んで……熱い。
絵馬が燃えている。
いつか母に伴われて同席した死後婚の儀、そのときに手を取り合った少年と少女の名が刻まれた絵馬も、燃えて灰になってしまうのだろう。
今日の雨は細い。この程度では、燃え盛る火を留まらせるには力不足だ。
穢れた絵馬伝承は、頭から油を被った僕ごと、この世から綺麗さっぱり消え失せてくれるに違いない。
ゆっくりと瞼を伏せた、そのときだった。
『尊兄さま』
不意に、小さな声が耳を揺らした。
どこか遠くにそれを聞きながら、僕は、ろくに動かぬ身体を無理やりそちらの方角へ向き直らせた。