柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
     *


 気がつくと、僕は本堂の前に転がっていた。
 冷えた地面は、最後に感じた灼熱とは懸け離れている。しとしとと雨に打たれて濡れる砂利、細い雨の音。弾かれたように視線を上向けると、絵馬の奉納場所である離れの仏堂の成れの果て――焦げ落ちた建物の残骸が目に飛び込んできた。

 仏堂自体は、もはや見る影もない。
 中に並んでいた無数の絵馬も、大半は焼け落ち、煤となり……かろうじて残ったらしきわずかばかりも、元の形など想像さえ及ばぬほど変わり果てた姿で地面に転がっていた。
 手入れの施されていない笹が無造作に生い茂り、焦げた仏堂を含めたすべてを隠蔽するかのごとく、青々と葉を伸ばしている。

 軋む身体には、それでも火傷の類は残っていない。
 ただ、鈍く痛む鎖骨の下、徴を走る傷痕はそのまま残っていた。無論、傷そのものは塞がっていたが。

『楽に死ねると思っていたか』

 兄の声が、唐突に響いた。
 僕とほとんど同じその声が、起き上がった直後の僕に、徐々に現実を思い出させてくる。

 ……思ってねえよ、と舌打ちをしながら心の中で毒づいた。
 これがあんたの復讐なんだろう。僕が望んだ未来も、絵馬伝承の正しい形も、二度と手に入らない。僕が自ら可能性を潰したという罪の意識を、未来永劫僕に味わわせ続ける、それこそがあんたの。

 彼岸と此岸の空気が入り交じる気配を肌に感じ、声をあげて笑ってしまいそうになった。
 すぐに突き破れるくらいにちっぽけな、お遊びじみた幽閉だ。死んでなお、あんたの力はこの程度か――そう思うと哀れでならなかった。そんな僕の嘲りに、兄自身は気づきすらしていないだろうが。
 よくも言えたものだ、先に殺そうとしたのは自分のくせに。僕の話を聞きもせず、藍を取られると思って……藍を。
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