柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 ああ、せっかくだ。
 このふざけた茶番に付き合ってやる代わりに、僕も、あんたに復讐していいだろうか。

藍は渡さないよ(・・・・・・・)。あんたにだけは」

 吹きすさぶ風が一瞬凪いだ。一拍置いた後、今度は怒号のような嵐が巻き起こる。
 終わらぬ梅雨の中に貶められた寺院の壁を殴り、僕を殴り……思った通りだ。あえて含みを持たせた挑発に、まさかこうも簡単に乗ってくるとは。

 あんたは、僕の力が自分の力を超えていることよりも、僕が藍を娶ることこそを嘆いていたんだ。

 兄の死の直後、藍は後を追うように己の首を掻き切ったが、そのときすでに死んでいた兄はいまだ気づけていない。
 そんなことにさえ思い至れないのか。今となっては僕よりも遥かに黄泉に近い身となっていながら。

 対岸を覗けば分かる。
 藍は彷徨っている。護を探してたったひとりで。
 こちらに留まったきりの護が、向こうで見つかるはずもないのに。

 だが、あんたは自分でそれを選んだ。
 僕に復讐したいがためだけに。

「……ふ」

 ざまあみろ。
 僕は別に藍なんか要らない。けど、あんたにもやらない。

 僕をこんな目に遭わせたあんただけが満たされるなんてあり得ない。しかも、それをわざわざ僕が手伝ってやる必要がどこにある。
 身体のないあんたは字が書けない。だから絵馬にも名を記せない。そもそも、あんたがこの世のものでなくなった今でも、あんたの力より僕の力のほうが数段上だ。絵馬をどうこうしようにも、僕を前にあんたはなにもできない。

 ――清々する。

 せいぜいあんたも味わうといい。
 望んだものが永遠に手に入らない絶望が、どれほど深いか。
< 115 / 185 >

この作品をシェア

pagetop