柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
《二》狂う歯車の中の符合
はっとして向き直ると、ゆっくり歩み寄ってくる護さんの姿が見えた。
抱えた怒りを、彼はもう隠そうともしない。尊さんと同じ顔が憤怒に染まるさまを目にして、背を冷たいものが伝い落ちていく。
そんな私を庇うように、尊さんは一歩前へ踏み出した。
『答えろ、尊。藍は今どこにいる』
低く抑えられた声が、チリチリと燻る火花を連想させる。
護さんは、純粋にその答えを知りたがっているわけではない。答えなんてとっくに知っていて、ただそれを確認しているだけ……いや、尊さん自身の口から引き出したいだけだ。
私に分かったのだから、尊さんに分からなかったはずはない。ふ、と微かに口元を緩めた尊さんは、私を護さんから隠すように間に立った。繋いでいた手を放され、言いようのない不安がまたも降りかかってくる。
「ふふ。僕がどこかに閉じ込めてるとでも思ってた?」
靄に揺らぐ護さんの手が、きつく握り締められるさまを見て取った。
尊さんの声の調子は変わらない。挑発めいた声で兄に語りかける彼は、愉快そうであり、また苦しそうでもあった。
きっと、彼の復讐はそういうものなのだ。
「藍はあんたを追って自害した。百二十年、藍はあんたを探して黄泉を彷徨いっぱなしだ」
広い背に隠れて息をひそめている私に、護さんの表情はもう見えない。
でも。
「さっさと黄泉に行けば良かったんだ。そうすれば、絵馬の力になんて頼らなくても、もっとずっと早く藍を見つけてやれたかもしれない。百年以上も時間があったんだし」
『……貴様』
「僕に復讐したくてこっちに留まったのはあんただ。藍が首を切ったところ、あんたには見えてなかったのかな……そうだよね、あんたの力は黄泉に半分足を突っ込んでる今でさえ」
――僕以下、なんだから。
抱えた怒りを、彼はもう隠そうともしない。尊さんと同じ顔が憤怒に染まるさまを目にして、背を冷たいものが伝い落ちていく。
そんな私を庇うように、尊さんは一歩前へ踏み出した。
『答えろ、尊。藍は今どこにいる』
低く抑えられた声が、チリチリと燻る火花を連想させる。
護さんは、純粋にその答えを知りたがっているわけではない。答えなんてとっくに知っていて、ただそれを確認しているだけ……いや、尊さん自身の口から引き出したいだけだ。
私に分かったのだから、尊さんに分からなかったはずはない。ふ、と微かに口元を緩めた尊さんは、私を護さんから隠すように間に立った。繋いでいた手を放され、言いようのない不安がまたも降りかかってくる。
「ふふ。僕がどこかに閉じ込めてるとでも思ってた?」
靄に揺らぐ護さんの手が、きつく握り締められるさまを見て取った。
尊さんの声の調子は変わらない。挑発めいた声で兄に語りかける彼は、愉快そうであり、また苦しそうでもあった。
きっと、彼の復讐はそういうものなのだ。
「藍はあんたを追って自害した。百二十年、藍はあんたを探して黄泉を彷徨いっぱなしだ」
広い背に隠れて息をひそめている私に、護さんの表情はもう見えない。
でも。
「さっさと黄泉に行けば良かったんだ。そうすれば、絵馬の力になんて頼らなくても、もっとずっと早く藍を見つけてやれたかもしれない。百年以上も時間があったんだし」
『……貴様』
「僕に復讐したくてこっちに留まったのはあんただ。藍が首を切ったところ、あんたには見えてなかったのかな……そうだよね、あんたの力は黄泉に半分足を突っ込んでる今でさえ」
――僕以下、なんだから。