柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 当事者ではない私まで凍りつきそうになるほど冷たい声だった。
 そしてそれは、護さんが秘めていたものを、瞬く間に壊してしまったらしい。

 悲鳴とも雄叫びともつかない声が、白い靄の中を反響しては乱反射を繰り返す。
 頭を掻きむしりながら叫び続ける護さんの声は、どうしてか、心臓を刺し貫くほどに強烈な痛みを私にもたらした。それは白く濁る空間を切り裂き、震わせ、精神ごと私を壊したがって牙を剥く。

 背中が粟立つ。
 この感覚、なんだろう。護さんの心の中身が残らず雪崩(なだ)れ込んでくるような、それにまるごと呑み込まれてしまいそうな、この感じは。

『この傷までは、消してあげられなかったんだね』

 ……もう少しで掴み取れそうだ。あと少し。
 それなのに、ぎりぎりで届かない。歯がゆさに思わず頭を抱えたそのとき、不意に素朴な疑問が脳裏を掠めた。

 祖母は、どうしてこの寺院について知っていた?
 檀家の人間か関係者だったのだろうか。寺院の詳細を伝え聞けるような、そういう立場の。

 祖母は、寺院の存在自体がお伽話の一部だと言った。けれど、私に語り聞かせながら、ずっと悲しげに目元を歪めていた。
 祖母の年齢を考えると、百二十年前の詳細をすべて知っていたとするには若すぎる。では祖母の親は、あるいは祖父母はどうか。そういった人々なら、詳細を――真実を知っていてもおかしくないのでは。

 いつの間にかどっぷりと考えごとに耽っていた私は、鈍い金属音が響いたことで、引きずられるように現実に引き戻された。

「っ、あ」

 護さんの双眸が、彼の乱れた前髪の隙間からぎろりと覗く。
 人を()(ころ)せそうな眼差しで尊さんを向いた彼の手には、ものさし大ほどの小刀が握られていた。
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