柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
くぐもった悲鳴が聞こえ、次いで小刀が乾いた音を立てて床に落ちる。
私の血がついたそれをさらに蹴り飛ばした尊さんは、それきり護さんを無視して私に向き直った。
「ごめん。やっぱり、違った」
言いながら、彼は私の肩へ手を伸ばしてくる。
その手は微かに震えていて、私は返答に窮してしまう。
「やっぱり君も縁者なんだね。こうやって、黄泉のものを身体に受け入れてしまえる」
「……え?」
尊さんの声は、豪風が収まった今も聞き取れないほどに小さい。
聞き逃すまいと、私はなんとか耳に意識を集中させる。
「いや、違う。それは前から気づいてた。そうじゃなかったら、手首の痣がだんだん薄くなっていくなんてあり得ない」
慈しむような指先が肩の傷口を掠め、ずきりと重い痛みが走る。
「どうしてこの場所で傷が癒える? 同じ一日を繰り返すだけのこの場所で、そんなことは絶対に起こらないって、ずっとそう思ってた」
「……尊さん」
「今だって同じだ。切れるはずのないもので切れてしまう、負うはずのない傷を負ってしまう。それにさっきの言葉……」
「え?」
「明日名。君の身体は、黄泉の空気が漏れ出たこの場所で、時間の経過を受け入れている……君は、僕にそれを伝えようとしてたんだね?」
泣き出しそうに歪んだ尊さんの顔を見て、どうしてそんな顔をするのかと思う。
同時に、いつか彼に伝えたある言葉が、ひどく鮮明に蘇る。
『顔はひいひいお祖母ちゃんに似てるんだって。昔、お祖母ちゃんに言われたの』
ひいひいお祖母ちゃん。お祖母ちゃんの、お祖母さん。
私を見つめる尊さんの、私の中に別の誰かを見出しているかのような視線。
私の血がついたそれをさらに蹴り飛ばした尊さんは、それきり護さんを無視して私に向き直った。
「ごめん。やっぱり、違った」
言いながら、彼は私の肩へ手を伸ばしてくる。
その手は微かに震えていて、私は返答に窮してしまう。
「やっぱり君も縁者なんだね。こうやって、黄泉のものを身体に受け入れてしまえる」
「……え?」
尊さんの声は、豪風が収まった今も聞き取れないほどに小さい。
聞き逃すまいと、私はなんとか耳に意識を集中させる。
「いや、違う。それは前から気づいてた。そうじゃなかったら、手首の痣がだんだん薄くなっていくなんてあり得ない」
慈しむような指先が肩の傷口を掠め、ずきりと重い痛みが走る。
「どうしてこの場所で傷が癒える? 同じ一日を繰り返すだけのこの場所で、そんなことは絶対に起こらないって、ずっとそう思ってた」
「……尊さん」
「今だって同じだ。切れるはずのないもので切れてしまう、負うはずのない傷を負ってしまう。それにさっきの言葉……」
「え?」
「明日名。君の身体は、黄泉の空気が漏れ出たこの場所で、時間の経過を受け入れている……君は、僕にそれを伝えようとしてたんだね?」
泣き出しそうに歪んだ尊さんの顔を見て、どうしてそんな顔をするのかと思う。
同時に、いつか彼に伝えたある言葉が、ひどく鮮明に蘇る。
『顔はひいひいお祖母ちゃんに似てるんだって。昔、お祖母ちゃんに言われたの』
ひいひいお祖母ちゃん。お祖母ちゃんの、お祖母さん。
私を見つめる尊さんの、私の中に別の誰かを見出しているかのような視線。