柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
     *


 ぐにゃり、ぐにゅり。
 炎天下に立ち上る陽炎のような、眩暈の後の視界のような。
 そんな状態がどのくらい続いた頃だろう。

 不快感とは言いきれない、目を閉じても回避できない揺らめきと深い渦。
 それが唐突に終わりを告げ、気づくと〝私〟は草木が生い茂る荒れ地の中にいた。後ろに寺院の本堂が見える。

 ああ、ここは私の隠れ場所じゃないか。そう思った。

 つらいことがあると、ひとりでここへ足を運び、荒れ地の中央にそびえる巨木の根に座って深呼吸を繰り返す。そうやってつらいことを忘れ、楽しいことを思い出し、そちらだけに思いを巡らせる。それが、嫌なできごとがあったときの私の対処法だった。

 不意にガサガサと草を掻き分ける音がして、私ははっと顔を上げる。
 腰まで届くほどに伸びた草を、両腕で掻き分けながら歩いてきたのは、美しい女性がひとり。

『あ。やっぱりここにいたのね、澪』

 艶めく髪をさらりと揺らし、彼女はそう言った。
 西日に照らされた大木の根本はとうに陰になっていて、少々肌寒い。露出した根に腰かける私の隣に座り、相手は無遠慮に顔を覗き込んできた後、そっと頭を撫でてきた。

 擽ったい。
 そう、この人は私の姉だ。
 優しくて綺麗で、大好きな、姉。

 姉は今年で十二歳、私は十歳になる。
 だが、私たちの外見は実年齢に伴っていない。いや、姉の外見が、だ。
 他人の目には、姉妹どころか母子かと思うほどに齢が離れて見えるに違いなかった。

 艶やかな首元、喉の下に浮き上がる黒い蓮の紋様。
 この人は〝力〟を持っている。
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