柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 姉は、此岸と彼岸、どちらの時間もその身に宿してしまえる。
 だから、実年齢よりもずっと大人に近い風貌をしている。姉が実際に過ごした時間は、彼女が生まれ落ちた日から数えた日数よりも遥かに長い。

 私には目立った力がない。ゆえに、私は能力者とは見做(みな)されなかった。
 一方、姉の力は非常に強い。ところが姉はそれをうまく制御できず、足首に拘束具を嵌めていた。姉の生を、より長く繋ぐもの。勝手に黄泉の時間まで取り込んでしまう厄介な力から、姉の命を守るための道具だ。

 力が込められた石をふんだんに用いて作られたそれは、事情を知らない人間にはただの装身具にしか見えないだろう。
 姉が足を動かすと、ときおり澄んだ音を立てる。西洋のお伽話に登場する踊り子が身に着ける装具のようで、私は少し羨ましく思う。けれど、姉にそれを言うと苦い顔をされるから、わざわざ伝えたいとは思わなくなった。

 両親は、力を持たない私に関心を持っていない。けれど姉は私に優しかった。
 微笑む姉は、笑顔ばかりは齢相応に見える。妙にお姉さんぶったり、ときには頬を膨らませてむくれたり、見ているだけで面白くてつい噴き出してしまう。

 大人びた姿をしていても、やはり姉は姉だ。
 私とふたつしか齢の違わない、可愛くて優しい、ただの女の子。

 姉は、生まれて間もなく、寺院の跡継ぎである護兄さまの許嫁になった。
 姉がそれを不幸だと嘆く姿を、私は見たことがない。むしろ、姉は護兄さまを心から慕っていた。齢が離れているはずのふたりが並んで歩く様子は、実にさまになっていて、周囲には齢の差など微塵も感じさせない。

 私は、姉が護兄さまのお嫁さまになると信じて疑わなかった。
 おそらくは、姉自身も疑っていなかった。

 それなのに。
< 130 / 185 >

この作品をシェア

pagetop