柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 笑う姉の顔が次第にぼやけていく。
 同時に、周囲の風景が再びぐにゃりと歪んだ。

 今度は、私は絵馬が無数に並ぶ奉納場所の前に立っていた。
 そうだ。この日は、死後婚の儀が執り行われる日だった。だから私は(ほうき)を手に、普段よりも念入りに掃除していた。

 秋の暮れ、早朝。
 静けさの中、箒が地面を掠めるときに立つざざ、ざざ、という音が、冷えた耳によく刺さる。柄を握る手がかじかみ、箒から片手を放してほうと息を吹きかけたそのとき、地面に長い影が落ちた。

 はっとして隣を見ると、そこには尊兄さまの姿があった。

『あっ! お、おはようございます、尊兄さま』
『おはよう。今日は澪が掃除をしてくれてるんだね』
『は、はい。その、今日は儀が執り行われる日だと、聞いてましたので』

 やわらかく微笑んだ尊兄さまは、とても美しいお顔をされている。薄い朝日を浴びた横顔は普段よりも一層(まばゆ)く、私は思わず見惚れてしまった。
 双子である護兄さまと同じ顔。けれど尊兄さまは、護兄さまとは……いや、普通とは異なる色の髪と目をなさっている。その特異な外見のせいで、尊兄さまは心ない言葉を頻繁に投げつけられているという。

 どうして皆には分からないのだろう。こんなにも綺麗な方を、私は他に知らない。私のような子供の目にさえそう映るのに。
 この方の美しさには、わずかな穢れも感じられない清らかなお心も影響している。そのせいか、ふと目を逸らした隙に消え失せてしまいそうな儚さも、ときおり感じるのだけれど。

 私には、寺院が継承を望む類の力は――姉のようなそれはない。
 ただ、ごく稀に、薄くではあるが見えるのだ。人の心の中身が。
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