柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
家族にしか打ち明けていなかったそれを、いつだったか、私は尊兄さまに零してしまった。
人の心の中身が、そのまま頭の中に入り込んでくることがある……うっかり口を滑らせた、薄気味悪い私の力の詳細。ところが、私の話を聞きながら、尊兄さまは驚きこそしても疑う素振りは少しも見せなかった。
僕のも分かるのか、と興味深そうに訊かれたときには、こちらこそ驚いた。
だから『尊兄さまのはよく入り込んできます』などと、つい馬鹿正直に打ち明けてしまったのだ。
途端に赤く染まった尊兄さまの顔を前に、ようやく私は自分の失言に思い至った。顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしたけれど、尊兄さまは、最後まで私を責めたり貶したりはしなかった。
本当に優しい方だ。だからこそ、尊兄さまをろくに知らないくせに悪く言いたがる者たちが余計に厭わしくなる。
皆、きっと尊兄さまを貶しめたいわけではない。口汚く罵りつつも、本当は恐れているだけ。この世ならざる者のごとき美しさを。彼が持つ、確かな力の行く末を。
ならば力になって差し上げれば良いものを。
跡継ぎとして、あるいは祭祀者としてのこの方を、なぜ誰ひとり支えようとしないのか。
子供の私が声高に叫んだところでなにも変わらない。だが、まさに今私が抱いている諦めの心、それすらこの方の中には微塵も存在していない。心から尊敬してしまう。
尊兄さまは、今この瞬間も抗っている。寺院とご自身を取り巻くあらゆる思惑や陰謀に対し、逃げも諦めもせず、真正面から対峙している。
できるなら私が力になりたいと、いつも思う。
とはいえ、黄泉に関わる力を持たない私にはなにもできない。せいぜいこうやって奉公に励む程度だ。
『澪が掃除をしてくれた日はとても綺麗で、本当に助かるよ。ありがとう』
心中に思い描いていた言葉をただのひとつも伝えられないまま、結局、私は去っていく尊兄さまの背を見送るしかできなかった。
人の心の中身が、そのまま頭の中に入り込んでくることがある……うっかり口を滑らせた、薄気味悪い私の力の詳細。ところが、私の話を聞きながら、尊兄さまは驚きこそしても疑う素振りは少しも見せなかった。
僕のも分かるのか、と興味深そうに訊かれたときには、こちらこそ驚いた。
だから『尊兄さまのはよく入り込んできます』などと、つい馬鹿正直に打ち明けてしまったのだ。
途端に赤く染まった尊兄さまの顔を前に、ようやく私は自分の失言に思い至った。顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしたけれど、尊兄さまは、最後まで私を責めたり貶したりはしなかった。
本当に優しい方だ。だからこそ、尊兄さまをろくに知らないくせに悪く言いたがる者たちが余計に厭わしくなる。
皆、きっと尊兄さまを貶しめたいわけではない。口汚く罵りつつも、本当は恐れているだけ。この世ならざる者のごとき美しさを。彼が持つ、確かな力の行く末を。
ならば力になって差し上げれば良いものを。
跡継ぎとして、あるいは祭祀者としてのこの方を、なぜ誰ひとり支えようとしないのか。
子供の私が声高に叫んだところでなにも変わらない。だが、まさに今私が抱いている諦めの心、それすらこの方の中には微塵も存在していない。心から尊敬してしまう。
尊兄さまは、今この瞬間も抗っている。寺院とご自身を取り巻くあらゆる思惑や陰謀に対し、逃げも諦めもせず、真正面から対峙している。
できるなら私が力になりたいと、いつも思う。
とはいえ、黄泉に関わる力を持たない私にはなにもできない。せいぜいこうやって奉公に励む程度だ。
『澪が掃除をしてくれた日はとても綺麗で、本当に助かるよ。ありがとう』
心中に思い描いていた言葉をただのひとつも伝えられないまま、結局、私は去っていく尊兄さまの背を見送るしかできなかった。