柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 ぐにゅり。

 また景色が入れ替わる。眩暈が蘇り、それは次第に強まっていく。
 正装に身を包んだ寺院の関係者たち、喪服を着た両親。ときおり目頭を押さえる父と母。ああ、覚えている。

 これは、姉の葬儀の情景だ。

 尊兄さまと姉が夫婦となる、その前夜の惨劇だった。
 尊兄さまの姿は、葬送の場のどこにも見当たらない。それはそうだろう、彼も重篤な傷を負ったと聞いている。
 姉の死の詳細については、ご住職直々に私たち家族へ伝え入れてきた。一切口外するな、という大層なご命令とともに。

 柩に納まる姉の亡骸は、やわらかく微笑んでいるように見えた。凄惨な刀傷が走る首元は、艶やかな藍色の振袖を被せられて隠れている。
 姉は愛する男を追って自害したのだ。その瞬間の姉の心の内を、あの夜、私は自らの力によって直に感じ取っていた。

 どうして笑っていられるの、姉さま。
 姉さまのせいで、姉さまと護兄さまのせいで、尊兄さまは。

 いつか姉さまが打ち明けてくれた言葉を思い出す。
 自分たちの婚約を白紙に戻すため、尊兄さまが水面下であれこれ手を尽くしてくれていると。それを、護兄さまにはまだ伝えられないと。尊兄さまに口止めされているのだと。

 護兄さまの乱心を止めようとした尊兄さま。結局は命を落とした護兄さま。そして、その後を追った姉さま。
 なにが悲劇なものか。
 そんなことをしでかすくらいなら、護兄さまは姉さまを連れてどこか遠くへ逃げるべきだったのだ。

 そうしてくれていたら、尊兄さまは。

 私の力は不安定で、人の心の声が嫌というほど聞こえてくることもあれば、なにひとつ聞こえなくなることもある。だからこそ、両親も寺院の関係者も、私の力を知っても特に着目しなかった。
 けれど、尊兄さまの心の内は流れ込んできやすい。
 尊兄さまは、護兄さまと姉の未来を案じ、そのためにさまざまな手段を講じている。それを、私は彼の本心とともにすでに知っていた。
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