柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
なにもせず、無慈悲な現実を嘆くばかり。挙句、未来を変えようと足掻き続けた尊兄さまをその凶刃にかけたなど――自業自得の死に姉さまを巻き込み、その罪さえも尊兄さまに押しつけ、かの方の心を滅多打ちにしたなど、他の誰が許そうと私は絶対に許さない。
姉さまも姉さまだ。どうして残される人間の気持ちを軽んじた。
私や両親だけではない、尊兄さまとて同じだ。幼い頃から私たち姉妹を可愛がってくれていたのは、なにも護兄さまひとりではなかったのに。
尊兄さまの心の内は、私にはもう分からない。
ときおり流れ込んできていたそれが、護兄さまと姉の死以降、ぷつりと途絶えたからだ。
尊兄さまの、一点の穢れもない美しいお心は、今となっては、もう。
ぐにゃり、ぐにゅり。
景色はさまざまなものへと移り変わってはすぐさま立ち消える。
自室。墓地。本堂。中庭。護兄さま。藍姉さま。白い柩。黒い蓮。揺れる蝋燭の炎。ひとりずつ、ゆっくりと、しかし確実に不自然な死を遂げてゆく寺院関係者たち。
一滴の血すら流れ落ちぬ。そのくせ、他のどんな方法でもたらされるより遥かに残酷で、理不尽な死。
その中心にあるのは、心を失くした、あの方だ。
最後に、私は赤く燃え盛る絵馬の奉納場所へ辿り着いた。
いつかの秋の暮れ、早朝の掃除の最中にあの方に声をかけられた、ちょうどそれと同じ場所辺りに人影が見える。
声の限り叫んでいるのに、相手には届かない。
届かないから近づいた。火の海に自ら飛び込んだ。梅雨の季節の細い雨、その程度の水に濡れただけの私の身体は簡単に熱に晒され、熱くて熱くて、それでも、私は。
『尊兄さま……!!』
ぶつん、と意識のちぎれる音がした後、目の前に広がっていた地獄のような情景が瞬時に掻き消えた。
姉さまも姉さまだ。どうして残される人間の気持ちを軽んじた。
私や両親だけではない、尊兄さまとて同じだ。幼い頃から私たち姉妹を可愛がってくれていたのは、なにも護兄さまひとりではなかったのに。
尊兄さまの心の内は、私にはもう分からない。
ときおり流れ込んできていたそれが、護兄さまと姉の死以降、ぷつりと途絶えたからだ。
尊兄さまの、一点の穢れもない美しいお心は、今となっては、もう。
ぐにゃり、ぐにゅり。
景色はさまざまなものへと移り変わってはすぐさま立ち消える。
自室。墓地。本堂。中庭。護兄さま。藍姉さま。白い柩。黒い蓮。揺れる蝋燭の炎。ひとりずつ、ゆっくりと、しかし確実に不自然な死を遂げてゆく寺院関係者たち。
一滴の血すら流れ落ちぬ。そのくせ、他のどんな方法でもたらされるより遥かに残酷で、理不尽な死。
その中心にあるのは、心を失くした、あの方だ。
最後に、私は赤く燃え盛る絵馬の奉納場所へ辿り着いた。
いつかの秋の暮れ、早朝の掃除の最中にあの方に声をかけられた、ちょうどそれと同じ場所辺りに人影が見える。
声の限り叫んでいるのに、相手には届かない。
届かないから近づいた。火の海に自ら飛び込んだ。梅雨の季節の細い雨、その程度の水に濡れただけの私の身体は簡単に熱に晒され、熱くて熱くて、それでも、私は。
『尊兄さま……!!』
ぶつん、と意識のちぎれる音がした後、目の前に広がっていた地獄のような情景が瞬時に掻き消えた。