柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
     *


「見えちゃった?」

 声をかけられ、はっと我に返った。
 さっきとは違い、私は立ったまま尊さんの記憶を覗いていたらしい。諦めの滲む目で見つめられ、自分が今どこにいるのか、私は慌てて現実を手繰(たぐ)り寄せる。

「あ……はい。多分」
「そう。昔、澪も言ってた。人の心の中が見えてしまうことがあるって。僕のは特によく届くんだって」
「……尊さん」

 頬をなぞっていた指が唇へ動く。
 震える私のそこを静かに撫でながら、尊さんは呟くように声を滑らせた。

「仲、良かったんだよ。ずっと一緒だった」
「うん」
「なんでこんなに拗れちゃったのか、分からないんだ」
「うん」
「いや、違う。分かってる、でも僕が言いたいのは、そうじゃなくて、」
「……うん」

 途方に暮れた顔で途切れ途切れに呟く尊さんが、迷子の子供のように見えた。
 父親に手を振り上げられ、きつく目を閉じた小さな男の子。痛々しい姿を思い出し、ぎりりと胸が軋む。

 兄弟の関係が拗れた理由は、跡継ぎの変更と、なにより藍さんの存在なのだろう。でも、尊さんが今伝えたがっていることはそれではない。
 激情が膨れ上がっていく。心を突き破るほどのそれをどうにか制御しなければと、私は、傍で力なくうなだれる彼をきつく抱き締める。

「殺したくなんてなかった」
「うん」
「ああしないと僕が殺されてた。でも、あんなことしなきゃ良かった。刃が、刺さって……感覚、少しも消えないんだ。今も」
「……尊さん」
「抵抗なんかしないで、黙って死ねば良かった。そうしたら護と藍は……けど、それじゃあ明日名には会えなかったのかな……」
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