柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
『っ、誰がお前などに……!』
「もういい。終わりにしよう、護。あんただって疲れただろ」
吐き捨てるような声で拒絶した護さんは、尊さんの続きの言葉を耳に入れた途端、苦しげに眉を寄せた。
尊さんが言ったそれは、護さんにとってもおそらく真実なのだ。
ふたりとも疲れきっている。延々と繰り返されるだけの、終わりの見えない時間に。なにひとつ自身の手元に残らない、そんな未来に。
「書いてあげる。僕が望んでる人は藍じゃないし、藍は藍で、多分あんたの傍にしか行きたがらない」
『あ……』
「その代わり、明日名は絶対に渡さない」
かたん、と物が落ちる音につられて護さんの手元に目を向けると、古びた絵馬が見えた。
どこから現れたのか、それを静かに拾い上げた尊さんは、右手の人差し指の先を口に運んだ。強く噛んだように見え、案の定、そこには血の赤がじわりと滲む。その指を、尊さんは手にした絵馬へ滑らせていく。
……そうやって名を刻むつもりなのか。
筆がなくても、絵馬と儀を執り行う祭祀者さえあれば、死後婚は成立してしまうのだ。
やめてください。
いいえ、どうかそのまま続けてください。
もう終わりにしてほしい。
ふざけないで、終わりだなんてそんなこと、私は絶対に許さない。
乱れた思考が縦横無尽に頭の中を駆け巡り、私はなにがなんだかわけが分からなくなって、ただ息を詰めてふたりを見ていた。
「もういい。終わりにしよう、護。あんただって疲れただろ」
吐き捨てるような声で拒絶した護さんは、尊さんの続きの言葉を耳に入れた途端、苦しげに眉を寄せた。
尊さんが言ったそれは、護さんにとってもおそらく真実なのだ。
ふたりとも疲れきっている。延々と繰り返されるだけの、終わりの見えない時間に。なにひとつ自身の手元に残らない、そんな未来に。
「書いてあげる。僕が望んでる人は藍じゃないし、藍は藍で、多分あんたの傍にしか行きたがらない」
『あ……』
「その代わり、明日名は絶対に渡さない」
かたん、と物が落ちる音につられて護さんの手元に目を向けると、古びた絵馬が見えた。
どこから現れたのか、それを静かに拾い上げた尊さんは、右手の人差し指の先を口に運んだ。強く噛んだように見え、案の定、そこには血の赤がじわりと滲む。その指を、尊さんは手にした絵馬へ滑らせていく。
……そうやって名を刻むつもりなのか。
筆がなくても、絵馬と儀を執り行う祭祀者さえあれば、死後婚は成立してしまうのだ。
やめてください。
いいえ、どうかそのまま続けてください。
もう終わりにしてほしい。
ふざけないで、終わりだなんてそんなこと、私は絶対に許さない。
乱れた思考が縦横無尽に頭の中を駆け巡り、私はなにがなんだかわけが分からなくなって、ただ息を詰めてふたりを見ていた。