柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
     *


「今日はここまでだよ」

 お伽話。
 娘にこの寝物語を聞かせるとき、私は必ずそう断りを入れていた。

 ところが娘は、語り聞かせているこの話が、実際に私が体験して身に宿した記憶の断片だと気づいているのだろう。その証拠に、娘はいつも話が終わるまで眠ろうとしない。目を開き続け、最後に決まって口にする。『明日、お話の続き、教えてね』と。

 今日語り聞かせたもので、話はほぼ終わりだ。
 だからかもしれないが、娘は普段以上に神妙な顔で静かに切り出した。

「母さまはそれからどうしたの? 母さまにも、ちゃんと力があったんでしょう?」

 ……やはり尋ねられてしまうのか。
 覚悟はしていたものの、諦めによく似た気持ちが胸に湧き起こる。

 問われたくないなら、娘に話さなければ良かっただけ。だが、そうはできなかった。
 私が抱える願いを、誰かに知ってほしいと思ってしまった。そして、できればその相手は、今は亡き一族の力を――いや、私の力を受け継いでいる可能性のある者であってほしかったのだ。

 私は、狡く、弱い人間だ。

「あの方は必ず因果に囚われる。それなら、少しでも痛みがないほうがいいだろうと思った。なにをどうしたかなんて覚えちゃいないよ、ただ、一切の火傷をあの方には残さないでくれと願い続けたのさ」
「……母さま」

 娘の呼びかけは、声こそ小さかったが、深い思慮の滲んだものだった。
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