柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 私の震えに気づいたらしき娘の、息を呑む音が聞こえたと同時、堪えきれずついに私は涙を零した。
 娘の前で涙は流さぬ、弱さは見せぬ。夫の死後、そう誓いを立てて生きてきたにもかかわらず。

 夫の葬儀の場でさえ、私は泣かなかった。
 だが、やはりあの方は――私からありとあらゆる感情を剥ぎ取り、そして新たに植えつけた、あの方だけは。

「願わくば、あの方にも護兄さまにとっての姉のように、心を許し合える方が現れるといい。私にはとてもじゃないけどそんな大役、務まらなかったからね」
「母さま」
「あの日の私は幼すぎた。それに、あの方の傷も、まだまだ大きすぎた……本当のことを知ってしまうのが恐ろしくて、あれ以来、一度もお寺に行けちゃいないんだ」

 頬を伝う涙を拭おうとすると、先に娘が小さな手を寄せてきた。
 この子がいてくれて良かった。私はひとりではない、たったひとり残されてしまったわけではないと、縋ることができるから。

「あんたが大きくなったら、一緒に見に行くかい?」
「ううん。あたしも、悲しすぎて、きっと泣いてしまうもの」
「……そうか」

 いつしか娘も泣いていた。
 十にも満たない娘は、ひとりで眠る夜がいまだ恐ろしいらしい。小さな布団にふたりで横たわり、言葉もなく、私たちはしばし一緒に涙を零し続けた。
< 149 / 185 >

この作品をシェア

pagetop