柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 亡き夫が残してくれた遺産はそこそこのもので、私たち母子は働かずとも食べていける程度にはゆとりがあった。しかし私にはそれができず、結局、婚前と同じく日々針仕事をしながら暮らしている。
 娘が手のかかる時期だったうちは、子を育てることだけ考えていれば良かった。なにも考えずとも生きていられた。だが、今は違う。

 なにも考えたくない。
 思い出したくもない。
 それなのに、燻るように残るのは。

 生き延び、見初められ、その相手と結ばれ、子をもうけ――それでも私の心の底に焼きついたきり離れない、その人は。

「もう遅い。そろそろお休み」
「……ん」

 どうか、いつか、抱えた傷が癒えますように。
 事の顛末を目にする勇気のない私には、遠く離れた場所から、それをただ祈り続けるしかできないのだ。

 娘を巻き込みながら、己を偽りながら、この先、死ぬまで、ずっと。
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