柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 私の不躾な視線はあっさりと悟られてしまったらしい。傘を傾けた相手と目が合った。
 頭の中を読まれている気がして、咄嗟に傘で顔を隠す。その所作こそ相手に不快感を与えてしまうのでは、と不安になってくるくらい露骨な動きになった。

 こんな山奥に足を運んでまで劣等感ばかり感じ取って、私は本当に馬鹿だ。傘の内側で、自嘲の溜息を強引に噛み殺す。

 可もなく、不可もなく。
 付き合って数日、元恋人が評した私の顔立ちがそれだ。

 自分を、綺麗だとか可愛いとか思ったことはない。就職してからは毎日化粧をするようになったけれど、それも美しさを求めてというよりは、社会人としてのマナーだからという義務的な気持ちのほうが強かった。
 元々、おしゃれや美容を楽しむ余裕を持てないまま成人した身だ。美しく着飾る高校時代の友人や会社の同僚を、羨ましく思わないわけでは決してない。けれど、彼女たちはそもそも自分とは別の世界に生きているのだと感じてしまう。

 もし私がもっと綺麗だったら、今とは違う未来があっただろうか。
 つまらない男に立て続けに騙されることはなかったかもしれない。あるいは、男のほうこそ私を掴んで放さなかったという状況もあり得たかも――そこまで考え、私は頭を抱えそうになる。

 考えるだけ無駄だ。
 結局、私は自分の選択ミスによって苦痛を味わっているだけ。自業自得でしかない。

 その苦痛をごまかさなければと、躍起になってこんな場所を訪れて……溜息が零れた。
 高校を卒業してからずっと勤めてきた会社を衝動的に辞めた挙句、再就職の準備もろくにせず、旅行鞄ひとつでこの片田舎を訪ねてくるなんて、一体どれだけ参ってしまっていたのだろう。
< 15 / 115 >

この作品をシェア

pagetop