柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
左手首から肘にかけて、不意に鈍い痛みが走った。
……痛い。痛み止めはどこにあるのだったか。痛みさえ引けば、少なくともそのせいで余計な記憶を思い出すことはなくなる。それなのに。
ああ、旅行鞄の中だ、と気づいて泣きたい気分になった。
手持ちの分を持ってくれば良かった。いずれこういうふうに痛み出すと分かっていて、本当に馬鹿みたいだ。
じくじくと広がる痛みと息苦しさのせいで、とうとう涙が滲む。
いけない、今は人前だ、と自分をたしなめようとした、そのときだった。
「え?」
前触れもなにもなかった。
きいん、と甲高い音が、唐突に耳の奥を貫いた。
金属同士を擦り合わせているような音だ。単なる耳鳴りとは思えない程度には大きく、それに長い。なかなか止まらない。
額に添えていた手のひらが、勝手に耳へ動く。耳を塞いだところで防げるものではなさそうだと分かっていて、それでも本能的な自分の動きは止められなかった。
ひどい音だ。耳の奥が、じりじりと焦がされていくような。
耐えかねてきつく目を瞑った瞬間、強い力で腕を引かれた。あ、と声が零れ、腕を掴む手の主を反射的に見上げる。
傘と荷物を片手にまとめて持ち、もう片方の手で私の手首を掴む彼の額には、うっすらと汗が滲んで見えた。それは降り続く雨の残滓と混ざり合い、瞬く間に彼から表情を奪っていく。
「あ……」
耳の奥が痛い。眩暈に襲われ、よろめいたそのときになって、強烈な音は唐突に終わりを告げた。
きん、とひときわ高い音を立てて消えた後、辺りを包むのは、それのせいですっかり忘れてしまっていた雨の音のみになる。
……痛い。痛み止めはどこにあるのだったか。痛みさえ引けば、少なくともそのせいで余計な記憶を思い出すことはなくなる。それなのに。
ああ、旅行鞄の中だ、と気づいて泣きたい気分になった。
手持ちの分を持ってくれば良かった。いずれこういうふうに痛み出すと分かっていて、本当に馬鹿みたいだ。
じくじくと広がる痛みと息苦しさのせいで、とうとう涙が滲む。
いけない、今は人前だ、と自分をたしなめようとした、そのときだった。
「え?」
前触れもなにもなかった。
きいん、と甲高い音が、唐突に耳の奥を貫いた。
金属同士を擦り合わせているような音だ。単なる耳鳴りとは思えない程度には大きく、それに長い。なかなか止まらない。
額に添えていた手のひらが、勝手に耳へ動く。耳を塞いだところで防げるものではなさそうだと分かっていて、それでも本能的な自分の動きは止められなかった。
ひどい音だ。耳の奥が、じりじりと焦がされていくような。
耐えかねてきつく目を瞑った瞬間、強い力で腕を引かれた。あ、と声が零れ、腕を掴む手の主を反射的に見上げる。
傘と荷物を片手にまとめて持ち、もう片方の手で私の手首を掴む彼の額には、うっすらと汗が滲んで見えた。それは降り続く雨の残滓と混ざり合い、瞬く間に彼から表情を奪っていく。
「あ……」
耳の奥が痛い。眩暈に襲われ、よろめいたそのときになって、強烈な音は唐突に終わりを告げた。
きん、とひときわ高い音を立てて消えた後、辺りを包むのは、それのせいですっかり忘れてしまっていた雨の音のみになる。