柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
終章 六月二十五日、梅雨の終わり
病室からは、あの寺院が見える。
高台の病院は、小高い丘に建つ寺院よりもさらに高い場所へ建っているために、全貌を一望できるのだ。
娘は、私生児として生まれ育った。
私の子とは思えないほど優秀な頭脳を持って生まれてきたから、教育上さまざまな恩恵を受けられた。大学を卒業した後、ある企業に就職したものの、その後は自ら会社を起こしてそれがうまく軌道に乗った。今ではそれなりの財を成している。
寺院の建て直しにも貢献してくれた。
あの日、私の目にも廃墟に戻ってしまった寺院の内部は、数少ない資料や証言などを元に再現が成された。縁結びの寺として、今では地元の人々や多くの観光客で賑わい、愛されているそうだ。住職には同じ宗派の僧侶が任命され、勤めているという。
もっとも、私がその様子を見たことは一度もない。
あの場所へ足を運べるほど……足を運んだ後、なにごともなかったように日常に戻れるほどには、私の心は強靭でも愚鈍でもない。
年季の滲む絵馬を手に取る。
決意が定まるまで、五十年もの歳月を費やしてしまった。
目はもうほとんど見えていない。今の私に捉えられるのは、窓の外からしとしとと聞こえてくる雨音くらいだ。
今日のそれは弱々しい。むしろ、とうに失われかけた私の視力でも理解が及ぶほど、明るい日差しが室内に差し込んできている。これがいわゆる天気雨というものか。
六月の末、今日この日にこのような天候に見舞われるとは。
思わぬ偶然に、知らず口元が綻んだ。
高台の病院は、小高い丘に建つ寺院よりもさらに高い場所へ建っているために、全貌を一望できるのだ。
娘は、私生児として生まれ育った。
私の子とは思えないほど優秀な頭脳を持って生まれてきたから、教育上さまざまな恩恵を受けられた。大学を卒業した後、ある企業に就職したものの、その後は自ら会社を起こしてそれがうまく軌道に乗った。今ではそれなりの財を成している。
寺院の建て直しにも貢献してくれた。
あの日、私の目にも廃墟に戻ってしまった寺院の内部は、数少ない資料や証言などを元に再現が成された。縁結びの寺として、今では地元の人々や多くの観光客で賑わい、愛されているそうだ。住職には同じ宗派の僧侶が任命され、勤めているという。
もっとも、私がその様子を見たことは一度もない。
あの場所へ足を運べるほど……足を運んだ後、なにごともなかったように日常に戻れるほどには、私の心は強靭でも愚鈍でもない。
年季の滲む絵馬を手に取る。
決意が定まるまで、五十年もの歳月を費やしてしまった。
目はもうほとんど見えていない。今の私に捉えられるのは、窓の外からしとしとと聞こえてくる雨音くらいだ。
今日のそれは弱々しい。むしろ、とうに失われかけた私の視力でも理解が及ぶほど、明るい日差しが室内に差し込んできている。これがいわゆる天気雨というものか。
六月の末、今日この日にこのような天候に見舞われるとは。
思わぬ偶然に、知らず口元が綻んだ。