柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
目を閉じる。
瞼の裏側、五十年もの間片時も忘れられなかった人の姿が、鮮明に浮かび上がってくる。目が見えずとも、目尻を零れ落ちた水滴の感触ははっきりと感じ取れた。
伝承が真実なら、あの子の手に絵馬が渡った瞬間、私たちの儀は成立したことになる。
次第に遠のいていく雨音が、私を確信へと導いていく。
『明日名。迎えに来たよ』
雨音は声に変わる。あなたの声が、耳の奥に届く。
今日は六月二十五日。同じ一日を何度も繰り返していたあの日々と、同じ日だ。
耳の奥で鳴り続けていた雨音が静かに途絶える。
終わりのやってこなかった私たちの雨が、今、ようやく終わる。
この身体を抜けて、私、今、あなたの隣に行きますから。
『はい。遅くなってごめんなさい、尊さん』
自力では歩けないほど弱っていたはずの足が、驚くほど軽い。
胸元目がけて飛び込んだ私を、あなたは優しく受け止め、抱き締めてくれた。
その両腕は、私が知るあなたのどのぬくもりよりも温かく、力強さに満ちていた。
〈了〉
瞼の裏側、五十年もの間片時も忘れられなかった人の姿が、鮮明に浮かび上がってくる。目が見えずとも、目尻を零れ落ちた水滴の感触ははっきりと感じ取れた。
伝承が真実なら、あの子の手に絵馬が渡った瞬間、私たちの儀は成立したことになる。
次第に遠のいていく雨音が、私を確信へと導いていく。
『明日名。迎えに来たよ』
雨音は声に変わる。あなたの声が、耳の奥に届く。
今日は六月二十五日。同じ一日を何度も繰り返していたあの日々と、同じ日だ。
耳の奥で鳴り続けていた雨音が静かに途絶える。
終わりのやってこなかった私たちの雨が、今、ようやく終わる。
この身体を抜けて、私、今、あなたの隣に行きますから。
『はい。遅くなってごめんなさい、尊さん』
自力では歩けないほど弱っていたはずの足が、驚くほど軽い。
胸元目がけて飛び込んだ私を、あなたは優しく受け止め、抱き締めてくれた。
その両腕は、私が知るあなたのどのぬくもりよりも温かく、力強さに満ちていた。
〈了〉