柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
『しばらくこの寺で住み込みの手伝いをしていただけませんか』
彼女を繋ぎ留めるためだけの僕の申し出は、どう考えても唐突だった。
だが、困惑した様子を覗かせながらも、彼女は最終的に首を縦に振った。赤い傘から零れ落ちた雨の残滓が、この世のおぞましいものをすべて吸い込んだかのような真っ黒な雫に見え、柄にもなくひやりとした。
恋人と死に別れたのだろうという意味で投げかけた問いを、彼女はきちんと汲んでくれたらしい。だが、明らかに顔が強張っていた。
早合点で訊いてしまったが、的外れな問いかけだったのかもしれない。他になんらかの事情を抱えている可能性はあった。例えば、どことなく影を漂わせた印象から鑑みるに、彼女がここを訪れた理由はもっとほの暗い欲望に支配されてのことなのかもしれなかった。
その手の欲望は、本来、僕が最も忌み嫌う類のものだ。ただ、遥か昔に己が身に立てた志を失って久しい僕にとっては瑣末なことでしかなかった。むしろ、それよりも。
どうしてこの地を訪れようなどと思ったのか。
哀れな娘だ。そのせいで、君は本来歩むべき道を完全に踏み外すことになる。
そしてそれは決定してしまった。僕が告げた無謀な提案を、君が断らなかった瞬間に。
胸の奥を、細い針で刺されたような痛みが走る。些細な、しかし確実に苦痛を連れてくる、言うなれば遅効性の毒によく似ていた。
じくじくと鈍い痛みを生む毒が、細く降り続ける雨の描く直線に重なる。
それは、憐憫と後悔の入り交じった心境から、なかなか僕を引き上げさせてはくれなかった。
彼女を繋ぎ留めるためだけの僕の申し出は、どう考えても唐突だった。
だが、困惑した様子を覗かせながらも、彼女は最終的に首を縦に振った。赤い傘から零れ落ちた雨の残滓が、この世のおぞましいものをすべて吸い込んだかのような真っ黒な雫に見え、柄にもなくひやりとした。
恋人と死に別れたのだろうという意味で投げかけた問いを、彼女はきちんと汲んでくれたらしい。だが、明らかに顔が強張っていた。
早合点で訊いてしまったが、的外れな問いかけだったのかもしれない。他になんらかの事情を抱えている可能性はあった。例えば、どことなく影を漂わせた印象から鑑みるに、彼女がここを訪れた理由はもっとほの暗い欲望に支配されてのことなのかもしれなかった。
その手の欲望は、本来、僕が最も忌み嫌う類のものだ。ただ、遥か昔に己が身に立てた志を失って久しい僕にとっては瑣末なことでしかなかった。むしろ、それよりも。
どうしてこの地を訪れようなどと思ったのか。
哀れな娘だ。そのせいで、君は本来歩むべき道を完全に踏み外すことになる。
そしてそれは決定してしまった。僕が告げた無謀な提案を、君が断らなかった瞬間に。
胸の奥を、細い針で刺されたような痛みが走る。些細な、しかし確実に苦痛を連れてくる、言うなれば遅効性の毒によく似ていた。
じくじくと鈍い痛みを生む毒が、細く降り続ける雨の描く直線に重なる。
それは、憐憫と後悔の入り交じった心境から、なかなか僕を引き上げさせてはくれなかった。