柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
ぽつぽつと雨が傘を叩く音をぼうっと聞きながら、掴まれたままの腕に視線を向ける。
痛む手首とは逆の手を掴まれたことに、私はひっそりと安堵を覚えていた。痣まみれのほうをこの力で握られていたら、さすがに苦痛の声が漏れただろうから。
私の視線に気づいた彼は、我に返った様子で腕から手を放した。すみません、と告げる声は別人かと思うほど掠れきっていた。
なんだろう、今の。
不快な耳鳴りもそうだけれど、唐突に腕を掴まれたこともだ。タイミングを考えるなら、この人にも同じ音が聞こえていたのだろうか。でも。
「急に失礼しました。痛くありませんでしたか」
「あ、だ、大丈夫です」
抑揚のない声が頭上から降りかかる。答えを求めているわけではなさそうだな、と思いつつも小さく返事をした。
細い雨音の中、耳鳴りがまだ聞こえる気がしてならない。無意識のうちに額へ指を添えた、そのときだった。
「お嬢さん。唐突で申し訳ないのですが、ひとつお願いがあります」
沈黙を割かれ、視線を上向ける。
困惑を覚えながらも黙って次の言葉を待っていると、相手は思わぬ話を切り出してきた。
「先ほどのお話をほじくり返すようで申し訳ないのですが、お嬢さんはそれだけの覚悟を持ってこちらへお越しになったんですよね」
「え?」
「よろしければ、しばらくこの寺で住み込みの手伝いをしていただけませんか」
は、と知らず声が出た。
なにを言い出すのかと思えば、唐突にもほどがある。声の主に呆然と視線を向けたものの、傘で遮られてしまい、どんな顔で喋っているのかまでは分からなかった。
痛む手首とは逆の手を掴まれたことに、私はひっそりと安堵を覚えていた。痣まみれのほうをこの力で握られていたら、さすがに苦痛の声が漏れただろうから。
私の視線に気づいた彼は、我に返った様子で腕から手を放した。すみません、と告げる声は別人かと思うほど掠れきっていた。
なんだろう、今の。
不快な耳鳴りもそうだけれど、唐突に腕を掴まれたこともだ。タイミングを考えるなら、この人にも同じ音が聞こえていたのだろうか。でも。
「急に失礼しました。痛くありませんでしたか」
「あ、だ、大丈夫です」
抑揚のない声が頭上から降りかかる。答えを求めているわけではなさそうだな、と思いつつも小さく返事をした。
細い雨音の中、耳鳴りがまだ聞こえる気がしてならない。無意識のうちに額へ指を添えた、そのときだった。
「お嬢さん。唐突で申し訳ないのですが、ひとつお願いがあります」
沈黙を割かれ、視線を上向ける。
困惑を覚えながらも黙って次の言葉を待っていると、相手は思わぬ話を切り出してきた。
「先ほどのお話をほじくり返すようで申し訳ないのですが、お嬢さんはそれだけの覚悟を持ってこちらへお越しになったんですよね」
「え?」
「よろしければ、しばらくこの寺で住み込みの手伝いをしていただけませんか」
は、と知らず声が出た。
なにを言い出すのかと思えば、唐突にもほどがある。声の主に呆然と視線を向けたものの、傘で遮られてしまい、どんな顔で喋っているのかまでは分からなかった。