柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 翌朝、明日名の肌に痕が残っていたとしたら、それを見た瞬間にごまかしが利かなくなるだろう。この場所で明日名が時間の流れを受け入れていることを、否応なく眼前に突きつけられてしまう。
 また、仮にひと晩で痕が消えたとして、明日名がそれに気づいたらと想像すれば、さらに背筋の凍る思いがした。この場所での時間の流れが常とは異なると、明日名がはっきり知ってしまうことになる。

 明日名は(さと)いから、すでに薄々勘づいているかもしれない。それなのに、これまで一度たりとも、彼女はその疑惑を僕に零していない。
 そんな明日名に、僕はどこまでも甘え続けている。真実を告げる勇気も持てないまま、愛を囁きながら劣情を叩きつけるのみ。

 おそらく君は、この場所の異常に気づけないほど愚鈍でも短慮でもない。
 そうと理解できているくせに、僕は君を、まだこのふざけた箱庭に閉じ込めておきたくて仕方がない。
< 167 / 185 >

この作品をシェア

pagetop