柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
     *


 僕の知らない感情を、明日名はいつも僕に植えつけてくる。
 元々知らなかったものなのか、長い歳月の経過によって忘れてしまっただけなのか、その判別も僕にはつかない。もう分からない。

『嬉しい。だってこんなの、プロポーズみたい』

 ……〝ぷろぽーず〟ってなんだろう。
 求愛とか、約束とか、その手の意味の言葉だろうか。

 やはり僕には分からない。明日名と僕が本来生きるべき世界は、これほどまでに違っている。

 例えば、愛していると僕が口にすれば、明日名は微笑みを浮かべて同じ言葉を返してくれるだろう。
 けど、それで? それからどうすればいい?
 分からない。どのみち、明日名がここに永遠に留まるのは不可能だ。この場所にありながら、彼女はその身体に多少なりとも時間の流れを受け入れている。

 随分と色が薄くなった手首の痣を見て、僕は我が目を疑った。
 見間違いだと幾度となく思い込もうとした。それでも、実際に起きてしまっていることがすべてだ。

 君と一緒に、この場所で、未来永劫ふたりきり。
 僕は確かにそれを望み、罪に濡れた腕の中に君を閉じ込めた。そうしたつもりだった。手に入れた気になっていた。だが。

 こんなもの、子供のままごと遊びと変わらない。早く君をあるべき場所へ帰さなければと思う。それなのにためらってしまう。
 どんな理由で、君がこの場所で時間を重ねる羽目になっているのかは分からない。もしかしたら、君の祖先の中にはこの寺院の関係者でもいるのかもしれない。例えば、わずかながらも力を受け継いだ人間の血が、君の中に……十分あり得る。

 寝乱れた襦袢を気に留めてやることもできず、僕は君をきつく抱き締める。
 君も僕を抱き締め返してくれて、それにさえ胸が引き裂かれそうになる。
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