柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
「広さだけはありますから、お嬢さん専用のお部屋を用意できます。仕事で汚れても良い服もお貸しできますし、食事や寝床についても心配は無用です。このように少々古い場所ではありますが」
「は、はあ」
「今後の行き先がすでにお決まりなら、無理強いは致しません。ただ、引き受けてくださると大変ありがたいのですが」
まくし立てる、という表現がぴったりの喋り方だった。語る声も心なしか硬い。
顔を合わせて以降ずっとやわらかな口調で話していた相手の、豹変とも取れる変化を前に、困惑を隠しきれない。なぜ急にそんな話を……そればかりが頭を巡り、口を開いてはなにも言えずまた閉じる、その繰り返しになってしまう。
相手の傘の端が小さく動く。なんと返すべきか忙しなく考えを巡らせていた私の目に、どこか縋るような相手の視線が絡む。
人手が必要であることをふと思い出した、という感じには見えない。かといって思いつきを口にしている感じでもない。どのみち、こうまで真面目に頼み込まれては、無下に断るのも気が引ける。
腕時計の短針は二を指したきりだ。
電池の切れた時計は正確な時間を教えてくれない。渇いた喉を少しでも潤そうと唾を飲み込んだ後、私はなんとか言葉をひねり出す。
「あの、私、今日中に麓の旅館に戻らないと」
「今から麓までですか? このような天候ですし、それに時間も時間です。到着する前に暗くなってしまうでしょうに」
「え、ええと、でも」
なにかうまい断り文句はないかと、必死に頭を働かせる。
とはいえ、帰り道に関しては確かに不安しかない。最後に立ち寄った例の個人商店が遥か遠くにあったと思えてしまうほど、随分長く歩いてきた気がしていた。
相手のまっすぐな視線を、再び感じ取る。
「は、はあ」
「今後の行き先がすでにお決まりなら、無理強いは致しません。ただ、引き受けてくださると大変ありがたいのですが」
まくし立てる、という表現がぴったりの喋り方だった。語る声も心なしか硬い。
顔を合わせて以降ずっとやわらかな口調で話していた相手の、豹変とも取れる変化を前に、困惑を隠しきれない。なぜ急にそんな話を……そればかりが頭を巡り、口を開いてはなにも言えずまた閉じる、その繰り返しになってしまう。
相手の傘の端が小さく動く。なんと返すべきか忙しなく考えを巡らせていた私の目に、どこか縋るような相手の視線が絡む。
人手が必要であることをふと思い出した、という感じには見えない。かといって思いつきを口にしている感じでもない。どのみち、こうまで真面目に頼み込まれては、無下に断るのも気が引ける。
腕時計の短針は二を指したきりだ。
電池の切れた時計は正確な時間を教えてくれない。渇いた喉を少しでも潤そうと唾を飲み込んだ後、私はなんとか言葉をひねり出す。
「あの、私、今日中に麓の旅館に戻らないと」
「今から麓までですか? このような天候ですし、それに時間も時間です。到着する前に暗くなってしまうでしょうに」
「え、ええと、でも」
なにかうまい断り文句はないかと、必死に頭を働かせる。
とはいえ、帰り道に関しては確かに不安しかない。最後に立ち寄った例の個人商店が遥か遠くにあったと思えてしまうほど、随分長く歩いてきた気がしていた。
相手のまっすぐな視線を、再び感じ取る。