柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
     *


 細首に食い込んでいく自分の指を、ぼんやりと見つめる。
 規則正しい寝息を繰り返していた明日名は、今、苦しげに喉を震わせている。は、とときおり息を零す彼女の顔を見下ろしていると、得体の知れない悦びを見出しそうになる。

 あと少し力を込めれば、明日名は絶命するだろう。
 絵馬を使って人を殺めた経験はあるが、人の身体を傷つけて息の根を止めるのは初めてだ。それを今、僕は実行に移そうとしている。心から愛する女性を相手に。

 そう、殺してしまえばいい。できるだけ苦痛の少ない方法がいい、だから明日名が眠っている今こそが絶好の機会だ。
 明日名と気持ちを通わせた時点でこうすれば良かった。そして、絵馬に名前を――君と僕の名前を隣り合わせに書けばいい、たったそれだけの話だった。
 ふたりの名を並べて書き終えれば、僕の命も間もなく終わる。なにせ祭祀者は僕だ。ふたり分の名前が書かれた絵馬に祭祀者が触れたと同時、死後婚の儀は成立する。

 明日名、苦しい? ごめんね、早く終わらせるから。
 そうしたら僕も、すぐに君を追いかけるよ。追いかけて、それで……それで?

 それで、僕はどうすればいいんだっけ。
 君の首を絞めたそれと同じ手で、僕が君を抱き締めるなんてことが許されるはずはなくて、それなのに君を殺さなければ僕らは一緒にはなれなくて……果たして、それは本当だっただろうか。

 違う。違う違う違う、違う。
 僕が望んでいるのは、そうじゃなくて……そんなことじゃ、なくて。

 視界がぐらりと揺れ、一拍置いた後、揺れているのは床ではなく自分の頭だと思い至る。瞬間、明日名が大きく目を見開いた。
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