柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―

《四》擬似心中

『今度、旅行しない?』
『星空が綺麗な場所も知ってるから、一緒に行こうね』

 連れてってあげる。君はそう言った。
 僕がこの場所から出られないと君はすでに知っていて、だから〝連れていって〟ではなく〝連れていってあげる〟と口にしたのだろう。

『明日名が生まれた町か。行ってみたいな』
『露天風呂って、ちゃんと明日名と一緒に入れるの?』

 そんな軽口でも叩いていないと、今にも押し潰されそうだった。
 君を連れて逃げてしまいたい。永遠にも等しい歳月をかけて僕を縛ってきたものは、僕が思うより、きっと遥かに簡単に切り離せてしまえる。僕の気持ちひとつで。
 だが、それを実行に移せば、その瞬間に僕の命は潰える。天涯孤独の苦しみを味わい続けてきた明日名を残して黄泉へ渡ろうものなら、僕はきっと二度と正気を取り戻せない。

 強く、温かく、優しい明日名。そんな君に、僕は甘え続けるしかできない。
 どれだけ君を愛していても、それが君を傷つける材料にしかならないなら即座に捨てるべきなのに、できない。ただ漫然と君を奪っては苦しめるばかりだ。
 それでも君は笑ってしまう。困ったように微笑みながら、何度でも、深い暗闇の底から僕を引っ張り上げてしまう。

 行きたい。君の言う通り、ふたりで、どこか遠くへ。
 ここからだって、昔は満天の星が覗いていた。護と藍と、藍の妹の澪と、四人で一緒に裏の空き地を目指して……幾度となく再生を繰り返してきた記憶が、ふと鮮明に蘇る。

 あの頃、僕ら双子は十五だったか、十六だったか。
 藍は僕らとほとんど変わらない外見をしていて、澪だけが小さかった。暗闇の中を歩くことを恐れてか、泣きそうに顔を歪めた澪を、三人で宥めたり笑わせようとしたりして、地面に転がって、空を見上げて、そして。
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