柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
小さな背中をそっと抱き締める。
起こしてしまうのは本意ではなかったが、己の心の内をどうにも止められず、衝動的に腕を伸ばした。
ひと晩抱けなかった程度でこのざまとは、我ながらひどい。
現に、自分がたったひと晩劣情を抑え込んだだけで、明日名はこれほど良好な体調を取り戻せたのに。
「ん」
小さく身動ぎされ、はっと我に返った。
いつしか力がこもっていた腕を緩め、僕は掠れた声をあげる。
「あ……ごめん。起こした?」
息を乱して僕を振り返った明日名は、暗闇の中でもはっきりそうと分かるほど頬を染めていた。そしてゆっくりと首を横に振り、また正面に向き直る。
彼女なりの拒絶だと受け取るしかなかった。心がしんと冷えていく感覚を振り払うように、触れた肌から指を引き剥がす。だがその瞬間、背を向けた明日名が、静かに僕の手を掴んだ。
「お願い。ぎゅって、してて」
顔が見えない状態で呟いた彼女の声は、上擦って聞こえた。
堪らなくなり、細い首に口づけた。あ、と悲鳴じみた声が聞こえた途端、なにも考えられなくなり、一度は力を緩めた腕に再び熱がこもる。
普段なら欲望の赴くまま好き勝手に貪る僕の、常とは違う仕種を訝しく思ったのかもしれない。戸惑いを滲ませながら、明日名は僕に首を向けた。
目が合ったが、明日名はなにも言わない。僕もなにも口にすることなく、黙って背後から抱き締め続ける。ついには、困惑しきった様子の明日名が口を開いた。
「尊さん?」
返事の代わりにもう一度細首に唇を寄せ、さっき口づけた場所の隣に吸いついた。
痕を刻むのは今夜が初めてだった。暗がりでも夜目が利く僕には、赤く染まる印がふたつ並ぶさまが鮮明に見て取れた。
明日には消えるはずのこの痕は、きっと消えない。
この人を苛んだ手首の痣と同じで、時間をかけて少しずつ消えていくに違いない。普通の時間を生きている人と同じように。
起こしてしまうのは本意ではなかったが、己の心の内をどうにも止められず、衝動的に腕を伸ばした。
ひと晩抱けなかった程度でこのざまとは、我ながらひどい。
現に、自分がたったひと晩劣情を抑え込んだだけで、明日名はこれほど良好な体調を取り戻せたのに。
「ん」
小さく身動ぎされ、はっと我に返った。
いつしか力がこもっていた腕を緩め、僕は掠れた声をあげる。
「あ……ごめん。起こした?」
息を乱して僕を振り返った明日名は、暗闇の中でもはっきりそうと分かるほど頬を染めていた。そしてゆっくりと首を横に振り、また正面に向き直る。
彼女なりの拒絶だと受け取るしかなかった。心がしんと冷えていく感覚を振り払うように、触れた肌から指を引き剥がす。だがその瞬間、背を向けた明日名が、静かに僕の手を掴んだ。
「お願い。ぎゅって、してて」
顔が見えない状態で呟いた彼女の声は、上擦って聞こえた。
堪らなくなり、細い首に口づけた。あ、と悲鳴じみた声が聞こえた途端、なにも考えられなくなり、一度は力を緩めた腕に再び熱がこもる。
普段なら欲望の赴くまま好き勝手に貪る僕の、常とは違う仕種を訝しく思ったのかもしれない。戸惑いを滲ませながら、明日名は僕に首を向けた。
目が合ったが、明日名はなにも言わない。僕もなにも口にすることなく、黙って背後から抱き締め続ける。ついには、困惑しきった様子の明日名が口を開いた。
「尊さん?」
返事の代わりにもう一度細首に唇を寄せ、さっき口づけた場所の隣に吸いついた。
痕を刻むのは今夜が初めてだった。暗がりでも夜目が利く僕には、赤く染まる印がふたつ並ぶさまが鮮明に見て取れた。
明日には消えるはずのこの痕は、きっと消えない。
この人を苛んだ手首の痣と同じで、時間をかけて少しずつ消えていくに違いない。普通の時間を生きている人と同じように。