柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
*
身体が壊れていく音がする。
指先がぱきんと砕け、砂のごとく崩れていく。それを自覚した途端、ただ呆然と僕を見つめていた明日名が、僕目がけて飛び込んできた。
そのまま、彼女は僕の身体を通り過ぎ、床へ倒れ込んだ。
一気に風化が訪れたような。砂が崩れるような。空気に溶けゆくような。
不思議と痛みは感じない。床に伏せてぼろぼろと涙を零す明日名を眺めているしかできないことのほうが、僕にとってはよほど苦痛だった。
人としてどう考えてもおかしい最期だと、自分でも思う。歪んだ生を歩んだ結果、人の道を外れた死が訪れる、ただそれだけのこととはいっても。
罪に濡れた手で明日名に触れた、それ自体が間違いだった。
理由はどうあれ、数多の人間を死へ陥れてきた僕が、人並みの幸せを手に入れたいだなんて、おこがましいにもほどがある。
ごめんね、明日名。
いずれはこうなると分かっていて、僕は君を放せなかった。逃がしてあげなければいけなかったのに、逆に閉じ込めてしまった。
「置いていかないで……私も、連れてって」
細い声が、間もなく消える僕の胸をぎりぎりと締めつける。
明日名の腕は、僕の首を通り抜けてしまう。僕はもう明日名に触れられない。けれど、重なり合ったそこはほんのりと温かく、そのぬくもりにしがみつきたいがためだけに指を放せない。
それは明日名も同じだったらしい。触れられない僕の首から、明日名は一向に腕を放せずにいる。
「だって、旅行、しようって……星空だって、ちゃんと見えるところ、ねぇ……」
掠れた声で明日名が紡いだ言葉は、いつか薄墨の空を見上げながら交わした約束だった。
叶うはずがないと互いに理解できていた悲しい約束の断片は、すでにまっとうな肉体を保ててはいない僕の頬へ、生ぬるい水滴を辿わせるには十分だった。
身体が壊れていく音がする。
指先がぱきんと砕け、砂のごとく崩れていく。それを自覚した途端、ただ呆然と僕を見つめていた明日名が、僕目がけて飛び込んできた。
そのまま、彼女は僕の身体を通り過ぎ、床へ倒れ込んだ。
一気に風化が訪れたような。砂が崩れるような。空気に溶けゆくような。
不思議と痛みは感じない。床に伏せてぼろぼろと涙を零す明日名を眺めているしかできないことのほうが、僕にとってはよほど苦痛だった。
人としてどう考えてもおかしい最期だと、自分でも思う。歪んだ生を歩んだ結果、人の道を外れた死が訪れる、ただそれだけのこととはいっても。
罪に濡れた手で明日名に触れた、それ自体が間違いだった。
理由はどうあれ、数多の人間を死へ陥れてきた僕が、人並みの幸せを手に入れたいだなんて、おこがましいにもほどがある。
ごめんね、明日名。
いずれはこうなると分かっていて、僕は君を放せなかった。逃がしてあげなければいけなかったのに、逆に閉じ込めてしまった。
「置いていかないで……私も、連れてって」
細い声が、間もなく消える僕の胸をぎりぎりと締めつける。
明日名の腕は、僕の首を通り抜けてしまう。僕はもう明日名に触れられない。けれど、重なり合ったそこはほんのりと温かく、そのぬくもりにしがみつきたいがためだけに指を放せない。
それは明日名も同じだったらしい。触れられない僕の首から、明日名は一向に腕を放せずにいる。
「だって、旅行、しようって……星空だって、ちゃんと見えるところ、ねぇ……」
掠れた声で明日名が紡いだ言葉は、いつか薄墨の空を見上げながら交わした約束だった。
叶うはずがないと互いに理解できていた悲しい約束の断片は、すでにまっとうな肉体を保ててはいない僕の頬へ、生ぬるい水滴を辿わせるには十分だった。