柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 薄い腹に指を伸ばすと、明日名は微かに頬を緩めた。
 やはりそうなのか。でも、僕にはなにもできない。最後の最後まで君を苦しめてばかりだ。

「すぐ、気づいてあげられなくて、ごめんね」

 僕の呟きは途切れ途切れで、喉が音を通すたび、乾いた痛みを連れてくる。指先はさっきよりさらに霞み、砕け、今にも消えてしまいそうだ。
 お願いです、あと少し時間をください。誰にともなくそう願う。
 この人に伝えるべき言葉は本当はもっとたくさんあって、けれど今の僕にはもう時間がなくて……ああ、そうだ。

 ごめんね、明日名。
 最期に、どうか、僕に色褪せない夢を見せてほしい。

「この絵馬を。明日名、君が、どうしても、僕がいなくて、生きていきにくかったら」

 ――僕の名前と、君の名前を、ここに書いて、お腹の子に渡してください。

 明日名はなにも答えない。当然なのかもしれなかった。
 僕が口にした言葉は、実行した瞬間に明日名の死を決定づけるものだ。それも、自分の子供の――僕の祭祀者としての血を受け継いでいる子供の手による死を。

 死後婚は、絵馬を奉じたときに成立するわけではない。名を記した絵馬を、祭祀者が手にしたときにこそ成立する。
 僕本人の手でなかったとしても、僕の血を受け継ぐ子供の手によってなら、おそらく叶ってしまうだろう。それは、君にとっても生まれてくる子供にとっても、どこまでも残酷な仕打ちでしかない。
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