柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 そうした反応は予測済みだ。「大学での研究のためなんです」とあらかじめ用意していた嘘の言い訳を口に乗せる。
 すると、それだけでお婆さんは感心した顔で「ほぉ」と目を丸くした。詳しい説明が必要になるかもしれないと、事前にあれこれ考えを巡らせていたものの、あっさり納得してくれたようだ。
 この周辺には、大学や短大、専門学校などといった学術的な施設がない。女ひとりで廃れた場所に向かう理由にしてはやや真実味に欠けるかと思っていた手前、お婆さんの分かりやすい反応を前に、私は心中でほっと胸を撫で下ろす。

「いや、でもよォ。お嬢さんみでぇな若い人が行ぐ場所ではねぇよ、道もよ、ぐちゃぐちゃの獣道みでぇになってっと思うぞ?」

 心配そうにぼやきつつも、お婆さんは丁寧に道を教えてくれた。
 おそらくは、話を聞きながら、私が店に並ぶ商品をさまざま手に取っては買い物かごへ入れ始めたからだ。見るからに田舎の商店といった雰囲気の店だ。大量に買い物をする人間はまず訪れないらしい。その点も予想通りだった。
 上客と受け取ってもらえたのか、支払いを済ませた私へ、お婆さんは地図まで手渡してきた。もっとも、目的地のために作られたものではなく、村おこし用と思しき麓の観光マップではあったけれど。

 このところの雨で泥濘(ぬかる)んだ道に気をつけるように、と強く念を押された後、礼を告げて商店を出る。

 雨脚は徐々に弱まってきているけれど、やんではいない。
 引き戸の横の傘立てに突っ込んでおいた傘へ手を伸ばし、それを静かに開いてから、私は再び足を踏み出した。
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