柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
〈手記・一〉

死後婚

 彼岸と此岸の境界線を覗き見て、対岸へ干渉する力。
 その不可思議な感覚を、私が初めて我が身のこととして理解したのはいつだったか。母が執り行う死後婚の儀、その場で小間使いをしていたときだったと思う。

 死後婚の儀――身分が高い者たちのそれは、母が担っていた。

 母は、そうした能力を強く身に宿して生まれ落ちたという。
 父と正式に婚姻を結ぶよりも先、十歳を過ぎた頃から、彼女は祭祀者(さいしのもの)として死後婚の儀を執り行っていた。

 四つの誕生日を過ぎたばかりの私は、母に伴われ、その日初めて儀に立ち会った。
 私よりも先に兄を立ち会わせるべきではないかと幼心にも訝しんだものだが、母は詳細を語らなかった。

 部屋の中央に設けられた()(けい)の卓、片側には顔を俯けて涙を流す男女の姿があった。
 男が位牌を持ち、女が寫眞(しゃしん)を持っている。そこには、十に届いたか届かぬかというほどの、面影に幼さを残した少年がひとり写っていた。
 対面にも、同じように男と女が座っていた。こちらは初老の男と老婆だ。そのふたりが親子らしかった。男の手にはやはり黒塗りの位牌が、そして老婆の手には小さな女の子供の寫眞があった。

 どちらも、成人していない子供の寫眞を残せる程度には裕福な者たちだ。しかし、私を真に震わせたのはその点ではなかった。

 空気がゆっくりと冷えていく。
 他の者たちはなにも感じていない。母と私以外は。

 ふと気づくと、二家の者たちが挟んでいる卓に向かい合い、寫眞の少年と少女が座っていた。
 それぞれの家族のちょうど中間――彼らのように卓から後方に下がった位置ではなく、卓を挟んですぐ対面に腰を下ろしている。
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