柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
少年は、寫眞と同じ學生帽を目深に被っていた。
対する少女も、やはり寫眞の中で着ているものと同じ、大輪の蓮が描かれた振袖を纏っている。
ふたりとも、視線に探るような気配を宿しつつ、どこか不安そうに互いの顔色を窺っていた。
泣き続けるそれぞれの家族には、その様子は一切見えていないらしい。
この世ならざる者たちの姿は、絲遊のごとく輪郭と色彩を揺らがせては再び人の形を取り、ひたすらそれを繰り返す。上座に腰かける母の後方に控えながら、しばし私は呼吸することそれ自体を忘れていた。
少年と少女は、幾たびか言葉を交わした。詳細は聞こえなかったが、それぞれが口を動かす素振りや、表情を変える仕種などは私にも見えた。それらは、次第により鮮明な輪郭を描いて私の視界へ映り込んでくる。
異様な光景――否、異常と言い表しても差し支えないだろうそれは、紛れもなくこの世ならざる者たちの対話であった。
冷えた空気の中、ほのかに緩む母の口元を何度か見た。母にはふたりの話がすべて聞こえている、そんな直感があった。
さらに過ぎた頃、またも変化が現れた。遠慮がちにではあったが、少年が差し出した手のひらを、少女がそっと握り返したのだ。
『本当にいいの?』
『うん。今のままじゃ、おとうさまとおばあちゃま、かなしいばっかりだから』
私が死者の声を聞いたのは、そのときが初めてだった。
対する少女も、やはり寫眞の中で着ているものと同じ、大輪の蓮が描かれた振袖を纏っている。
ふたりとも、視線に探るような気配を宿しつつ、どこか不安そうに互いの顔色を窺っていた。
泣き続けるそれぞれの家族には、その様子は一切見えていないらしい。
この世ならざる者たちの姿は、絲遊のごとく輪郭と色彩を揺らがせては再び人の形を取り、ひたすらそれを繰り返す。上座に腰かける母の後方に控えながら、しばし私は呼吸することそれ自体を忘れていた。
少年と少女は、幾たびか言葉を交わした。詳細は聞こえなかったが、それぞれが口を動かす素振りや、表情を変える仕種などは私にも見えた。それらは、次第により鮮明な輪郭を描いて私の視界へ映り込んでくる。
異様な光景――否、異常と言い表しても差し支えないだろうそれは、紛れもなくこの世ならざる者たちの対話であった。
冷えた空気の中、ほのかに緩む母の口元を何度か見た。母にはふたりの話がすべて聞こえている、そんな直感があった。
さらに過ぎた頃、またも変化が現れた。遠慮がちにではあったが、少年が差し出した手のひらを、少女がそっと握り返したのだ。
『本当にいいの?』
『うん。今のままじゃ、おとうさまとおばあちゃま、かなしいばっかりだから』
私が死者の声を聞いたのは、そのときが初めてだった。