柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 声変わりもしていない少年が少女に向けて淡く微笑み、一方の少女は強がりに等しい言葉の最後を震わせている。
 間を置かず零れた少女の大粒の涙を、少年が親指の腹で拭うさまを見て取った、その瞬間だった。

『めでたくご成婚でございます。おめでとうございます』

 場の沈黙を、母の声が唐突に割った。
 日頃聞き慣れているはずの母のそれが、そのときは普段よりも遥かに澄んだ音に聞こえたものだ。

 泣き崩れる両家の家族が、卓の中央に置かれた絵馬へ、死者たちの――少年と少女の名をそれぞれ書き込んでいく。

 そのさまを横目に、ふたりの子供は窓の外へ足を向けていた。
 少女の(まなじり)にすでに涙はなく、彼女は楽しそうに笑みを浮かべ、差し出された少年の手に小さな手を乗せている。

『少しこちらで遊んでから帰るらしい。懐かしいんだろう』

 私にだけ聞こえるよう小さく告げた後、絵馬の奉納場所へ向かうため、母は静かに腰を浮かせた。
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