柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
第二章 驟雨、重なる痣と傷

《一》凪いでは痛む

 仕事の内容は、簡単な家事と、寺院内での軽作業だった。
 本堂や各部屋の掃除を手伝ったり、仏具類の手入れをしたり、食事の用意をしたりと、大半がそうした仕事だ。

 絵馬様寺で世話になり始め、かれこれ三日が経過していた。

 わざわざ住み込みでというくらいだから、責任ある仕事を任されてしまうのではと身構えていたけれど、そんなことはなかった。力仕事の類も、今のところは任されていない。

 電気やガスの通っていないこの場所では、食事の支度をするにも、まずは火の起こし方から学ばなければならなかった。
 時代を感じる絵柄の箱に入ったマッチを擦り、古い(こん)()に器用に火を点ける彼の指を見つめ、ささやかな感動を覚えたことはまだ記憶に新しい。

 マッチ自体、使うのは子供の頃以来だ。マッチどころかライターとすらほぼ無縁の暮らしをしていたから、初めはマッチを擦る手が震えてならなかった。
 すぐに焜炉を使いこなせるようにはなれそうもなく、しばらくはそれよりも小さく扱いやすい七輪を使うことにした。とはいえ、それも使い慣れるまでには相当の時間がかかるだろう。

 予想はしていたけれど、寺院の中に、私以外に働いている人はいなかった。
 外観を眺めるだけでも荘厳な印象を受ける寺院は、広さだけはある、と事前に伝えられていた通りで内部も広大だ。
 寺の内部に足を踏み入れるという経験がこれまでになかった私は、最初は右も左も分からずおろおろするばかりだった。手伝いを始めて三日が経った今、やっと自分に割り当てられた部屋へ迷わず辿り着けるようになったくらいだ。

 典型的な核家庭で育った私は、田舎町に暮らしながらも、寺の檀家だとか付き合いだとか、そういうこととはほとんど縁なく生きてきた。
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