柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 彼のことは〝住職さま〟と呼んでいる。
 (かしこ)まらずに、とは言われていたけれど、これまでの人生で彼のような職種の人と知り合う機会がなかったから、雲の上の人じみた印象が抜けない。
 こればかりは仕方ない。いくら齢が近くても親切でも、問題はそこではないからだ。

 出会った日、私が名乗った後、彼も名前を教えてくれた。
 安斎(あんざい)(たける)。住職さまの名前は、まるで小説やドラマに出てくる主人公のような名だった。

 お互いに簡単な自己紹介を済ませた後、改めて住職さまの顔を真正面から捉えたとき、思わずまじまじと凝視してしまった。灰色がかった髪と同じ色だと思っていた両目のうち、片方がごく普通の黒色をしていたからだ。
 不躾な視線のせいか思いきり苦笑いされ、慌てて謝ると、『生まれつきでして』と返された。
 やはり、染髪しているわけでも、カラーコンタクトレンズを使っているわけでもなかった。確かに、電気もガスも水道も通っていない場所で生活している人がそんなことをしていたら、そのほうがずっと不自然だ。

 貧血でも患っているのではと心配になるほど白い肌も、生まれつきなら納得できる。
 初対面で〝美しい〟という突飛な感想を抱いてしまったのも、それが要因なのかもしれなかった。

 住職さまは、本堂でなにか仕事をしているか、書庫にこもっていることが多い。
 本堂の横の廊下から奥へ進んだ先にある書庫へは、一度案内してもらった。大抵ここにいるから、用があったらまずここを探してほしいと言われている。
 高く積み上がった書籍の数は膨大で、しかもどれも古い本ばかりだった。一冊一冊をじっくり眺めてはいないから、私には〝古くて難しい本が並んでいる〟くらいの印象しか抱けなかったけれど。
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