柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
     *


 施設で過ごしたのは、高校二年生からのおよそ二年弱だ。
 祖母の他界以外は特段苦い経験もなく高校生活を終えた後、私は施設を退去し、ひとり暮らしを始めた。

 施設で仲良くなった男の子と結婚の約束をしていたのに、施設内の別の女の子がその子の子供を妊娠した、と伝えられたのは二年前。ショックを引きずったきり、ひたすら仕事に邁進してなにもかも忘れようと躍起になっていた私は、その数ヶ月後に出会った男の甘言にあっさり騙された。
 あのときは本気だったのだ。けれど、男は私の住まいに転がり込んできながら少しも働こうとせず、さらにはことあるごとに私を施設出身だなんだと見下した。
 どうして別れを選ばず耐え続けていたのか、自分でも分からない。この人に捨てられれば人生が終わる、そんな気分になっていた。

 その男も、最終的には他の女の人を孕ませて私の前から消えた。
 死ねばいいのに。本気でそう思ったのは、あの男が初めてだ。

 そして私は絵馬様寺に来た。
 勢いで仕事を辞め、明確な目的もなくふらふらと彷徨(さまよ)っていただけ。祖母から寝物語に聞いた絵馬様の伝承を、心から信じていたわけではもちろんない。でもあの男だけは、死んでしまえと本気で思うほど憎かった。

 住職さまはまだ誤解しているみたいだけれど、結局、私は物騒な復讐を取りやめた。
 絵馬の奉納をやめるよう忠告されたときは息が詰まった。浅ましい内心のすべてを見透かされた気分だった。でも、どうしてここを訪れたのか、住職さまはあれ以降一度も私に尋ねてこない。
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