柩雨夜 ―終わらぬ梅雨、願わくば君に愛と枷を―
 伝承は、所詮伝承。
 語り継がれる中で一部は肥大し、また一部は改竄(かいざん)される。

 この寺院に残る伝承も同じだ、と住職さまは語った。

 彼の声は穏やかで、けれど話そのものはこの上なく現実主義的だった。
 この寺院をたったひとりで守っている住職さまの考え方は、非常に現代人らしく、また尖った表現をするなら冷めている。そんな印象が強かった。

 だとしても、彼がこの寺を大切にしていることは確かだ。
 そうでなければ、これほど不便な場所で――ライフラインさえ通っていない秘境じみた土地で、たったひとりで暮らし続けているわけがない。

 住職さまは優しい。一緒にいると、それだけで心が穏やかになる。荒んだ心が少しずつ癒え、満たされていく。
 同時に、ときおり胸の奥がちくりと痛む。もし私の醜い生き(ざま)と考えを知ったら、そのとき住職さまはどんな顔をするだろう、と。

 そう思うたび、胸の痛みはしくしくと広がっていく。
 それでも、その痛みの理由に、私はまだ思い至ってしまいたくない。
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